「ネタりか」終了のお知らせ

いつも「ネタりか」をご利用いただきありがとうございます。

この度「ネタりか」は、2019年10月16日(水)をもちまして、サービスを終了させていただくことになりました。

これまで長きにわたりご利用いただき、ありがとうございました。

BAUHAUSからZOC、悲劇のヒロイン症候群まで 深淵なるゴシックの世界から覗くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第11回

2019/8/24 12:00 Pop’n’Roll

BAUHAUSからZOC、悲劇のヒロイン症候群まで 深淵なるゴシックの世界から覗くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第11回 BAUHAUSからZOC、悲劇のヒロイン症候群まで 深淵なるゴシックの世界から覗くアイドルクロニクル|「偶像音楽 斯斯然然」第11回

これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

女性アイドルといえば元来、黒髪に薄化粧、といった清楚さが求められていたものだ。2016年に芸能界を引退したBerryz工房の嗣永桃子は、染髪せずメイクは最低限、ピアスなどのアクセサリー類は一切身に付けなかった。加えて自分を卑下しても他人を下げない、できることが当たり前で努力を見せることを由とせず、SNSもブログも自らは発信しないという、徹底的な“雲の上の存在”を最後まで貫き通していた。それは紛れもなく1つの完璧なアイドル像の完成形であった。しかしながら、めまぐるしく変化していく時代の中で、アイドルのニーズも少しずつ変わってきていることも事実である。

今勢いのあるグループの1つ、“ヒロシン”こと、悲劇のヒロイン症候群。彼女たちはグループ名が表すとおりの“自分がいちばん不幸である”と思っているような人に、そっと手を差し伸べるようなメッセージ性のある楽曲で、同性からの支持も厚い。いわば内に向けた負の感情を弄るような歌詞とゴシックに粧し込んだビジュアルは、従来のアイドル像とはまったく異なるものである。これは多様化する近年のシーンを象徴的に表していると思う。

悲劇のヒロイン症候群「サイレントクライ」

膝を抱える前に己の翼でと歌う、悲劇のヒロイン症候群「サイレントクライ」(2019年)

色ならば黒。時間であれば夜。異形で異端、猟奇的であり頽廃的、闇、病み、痛み、苦しみ、そして死……、ゴシックと聞いて連想されるのはそういったものだろう。しかし、どこか崇高的でもあり神秘性をも秘めている。偶像崇拝? それはどこかアイドル像に通じるものがある。

じゅじゅ「非実在少女」

“呪い”をコンセプトとした、じゅじゅ「非実在少女」(2019年)

今回はそうしたある意味で、清楚さとの表裏一体でもある心の闇を映し出すようなゴシックの深淵なる世界からアイドル、女性アーティストとの関わりについて紐解いていく。

そもそも、ゴシックとはなんなのだろうか——。

ゴシックとは?

ゴシックとは本来“ゴシック様式「Gothic Style」”と呼ばれる、12世紀後半にフランスを発祥とし、12〜15世紀の中世西ヨーロッパの建築や美術一般を示す用語である。フランス・パリのノートルダム大聖堂やドイツ・ケルンのケルン大聖堂が有名だ。ただ、黒服やゴスロリ(ゴシック・アンド・ロリータ)といったゴシックファッションを、こうしたゴシック様式の1つである、と説明されていることがあるのだが、それは間違いである。

近年我々が使用している“ゴシック「Gothic」”、ならびに略称“ゴス「Goth」”は、80年代のイギリスから始まった音楽スタイル“ゴシック・ロック「Gothic Rock」”と、それに付随するファッションを含めたサブカルチャーを指すことが一般的であり、そこにゴシック様式との直接の関係性はない。ややこしい話であるのだが、ゴシックは多様性と発展を含め世界で最も浸透し、いちばん長く続いている文化だと言われているほどに複雑なのである。

そもそもゴシックという言葉は、ゲルマンの一部族であるゴート族の様式“la maniera gotico”が語源の、蔑称であった。15〜16世紀のルネサンス期、イタリア人文主義者たちによるローマ帝国滅亡の恨みは根強く、ローマ滅亡に大きく加担したゴート族を軽蔑するのに“ゴシック”という言葉を使った。ローマの古典芸術を破壊した蛮族が作る中世芸術の建築を“ゴシック建築「Gothic Architecture」”と罵ったのである。

ゴシック建築は蔑まれ、“ゴシック・サヴァイヴァル”と呼ばれる時代が長く続いたが、18世紀後半のイギリスでゴシック建築の再評価、再興運動“ゴシック・リヴァイヴァル”が始まる。そんな中、ゴシック小説と呼ばれる中世懐古の小説が流行した。『ドラキュラ』『フランケンシュタイン』『ジキル博士とハイド氏』……、など、誰もが知るホラー/SFの源流となる作品である。そしてのちの1970年代後半のイギリスで、これらの小説の世界観を音楽やファッションに取り入れたバンドが登場する。ゴスの帝王・BAUHAUSをはじめ、Sex Pistolsの親衛隊だった女性、スージー・スー擁するSiouxsie And The Banshees、New Orderの前身バンドであるJoy Divisionなど、ゴシック小説の非現実的で頽廃的な世界観は、ゴシック・ロックと呼ばれたバンドによって音楽とファッションとして大きく広まっていったのだ。

つまり、我々が今ゴシックとして認識しているものは、ゴシック美術様式ではなく、ゴシック小説の世界観を取り入れたゴシック・ロックによって生まれたもの、というのが正しい。

BAUHAUS「She’s In Parties」

“ゴスの帝王”と呼ばれる、BAUHAUS「She’s In Parties」(1983年)

このムーヴメントは日本にも到来する。ロンドンでBAUHAUSを観たジュネが始めたバンド、AUTO-MOD、そして雑誌『FOOL’S MATE』の創設者である北村昌士が立ち上げたレーベル“トランス・レコード”などがその筆頭である。黒服を纏ったトランス・レコードの女性ファンは“トランス・ギャル”と呼ばれ、ヴィジュアル系バンドの女性ファン=バンギャルのパイオニアと言われることが多い。

ヴィジュアル系とゴシック

ヴィジュアル系とゴシックの関わりは深い。ゴシック・アンド・ロリータは、ゴシックと少女趣味ファッションであるロリータを合わせた日本独自の文化であるが、これを広めたのは1997年にメジャーデビューした、MALICE MIZERのギタリスト・Manaだと言われている。また、コスプレの定番であるメイド服の流行も氏の影響力が大きい。

90年代のゴシックは、ヴィジュアル系ファッションと混同されることが多く、アンダーグラウンドで異端的存在だった。そんなゴシックが一般的にも浸透したのが、2004年に映画化され、大ヒットした嶽本野ばら原作『下妻物語』だ。これを境に、雑誌『KERA』とその別冊『ゴシック&ロリータバイブル』を中心としたムーヴメントが大きく出来上がった。北出菜奈(2003年デビュー)やthe brilliant greenの川瀬智子によるTommy heavenly6(2003年活動開始)、当時新進気鋭のブランドだったh.NAOTOの衣装も話題になったバンド、GaGaalinG(2005年デビュー)など、ゴシックファッションを全面に出したアーティストも多く登場した。海外ではEvanescenceが成功を収め、Within Temptationなど、ゴシック色の強い女性ヴォーカルのヘヴィロックが台頭している。日本のインディーズでも、HEAD PHONES PRESIDENT、Dazzle Vision、0 Limited Excution……など、女性ヴォーカルのゴシックヘヴィロックシーンは盛り上がりを見せていた。

Evanescence「Bring Me To Life」

ゴシックと無機質なサウンドでヘヴィロック界に風穴を開けた、Evanescence「Bring Me To Life」(2003年)

こうしてゴシックは広く浸透していったわけだが、同時期にDIR EN GREYの海外人気、そして、D’ERLAGER(2007年)、LUNA SEA(2007年)、X JAPAN(2008年)といったレジェンドバンドの復活など、氷河期とも言われていたヴィジュアル系シーンの再評価と重なっていくところも注目すべきところである。

アイドルとゴシック

さて、ここでアイドルとゴシックの関わりである。2008年にデビューしたHANGRY&ANGRY。元モーニング娘。の吉澤ひとみと石川梨華によるこのユニットは、h.NAOTOとのコラボレーションによる“ヴィジュアル系女性ユニット”として誕生した。妖艶な衣装とメイクを施したビジュアルは、ロックテイスト溢れる楽曲とともにアイドルとアーティストの隔たりがまだ大きかった時代に、大きなインパクトを残した。

HANGRY&ANGRY「Kill Me Kiss Me」

デザイナー・Gashiconによる“グロカワ”キャラクターであり、当初その正体が吉澤・石川であることは隠されていた、HANGRY&ANGRY「Kill Me Kiss Me」(2008年)

その後、俗に言われる“アイドル戦国時代”へと突入するわけだが、黒髪清楚信仰の強かったこの時代にゴシックのアイドルはまだほとんど存在していない。ただ、楽曲単体やテイストとして取り入れているグループは見かけた。遡ること2003年にエイベックス台湾よりデビューしたシンディー・ワン(王心凌)の「HONEY」(2005年)は軍服女子の先駆けであったし、SUPER☆GiRLSのナポレオンジャケットやマタドール風の衣装はゴシック基調ながらアイドルらしい華やかさと高貴な雰囲気を打ち出したものであった。

SUPER☆GiRLS「赤い情熱」

真っ赤なマタドール衣装が映える、SUPER☆GiRLS「赤い情熱」(2012年)

SUPER☆GiRLS「赤い情熱」をはじめ、少女から大人への成長を嗅ぐわせる東京女子流「Bad Flower」、本格派ゴシックのAKB48「UZA」、宝塚歌劇テイストたっぷりのBerryz工房「ROCKエロティック」など、2012年頃にゴシック調のMVが多く発表されていることが興味深い。

東京女子流「Bad Flower」

ヘヴィサウンドと艶っぽさを打ち出した、東京女子流「Bad Flower」(2012年)

AKB48「UZA」

スモーキーアイメイクを通り越した目の周りを黒くしたメイクと衣装のみならず映像の世界観までゴシックだった、AKB48「UZA」(2012年)

Berryz工房「ROCKエロティック」

男装の麗人と優艶な淑女の絡みにファンならずとも多くの者が悶絶した、Berryz工房「ROCKエロティック」(2013年)

そして、このシーンに欠くことのできないグループが一躍名を馳せたのもこの頃。そう、BABYMETALである。ありそうでなかった“アイドルとメタルの融合”は、幅広いロックファンの琴線に触れた。ゴシックやメタルの持つ悪魔的なダークイメージを、メロイック・サイン(海外では“コルナ”)ならぬ、“キツネ様”というユーモアのあるファンタジーに昇華したことも、オリジナリティとして海外人気に繋がったことは言うまでもあるまい。

BABYMETAL「ヘドバンギャー!!」

ゴシックテイストのビジュアルながら“黒髪”という日本のアイドルの象徴を大きく掲げる、BABYMETAL「ヘドバンギャー!!」(2012年)

現在ではメタル、ラウドロックなど激しくヘヴィなサウンドを武器とするグループがシーンの一翼を担っている。ダークでゴシックな雰囲気を漂わせるグループも増えてきており、新時代の到来を感じさせる。

アンダービースティ「ARCADIA CAT」

カタカナとひらがな表記で、“ヴィジュアル系ロック”と“超王道系アイドル”を使い分けている、アンダービースティ「ARCADIA CAT」(2018年)

BLACKNAZARENE「officialfake」

「THUG(ヒップホップなどで使われる“悪”の意)× kawaii」をコンセプトに掲げる、BLACKNAZARENE「officialfake」(2018年)

ただ、たとえ負をモチーフとしながらも、後ろ向きでネガティヴな姿勢ではなく、どこか前向きで希望を与えてくれていることが、アイドルという存在の尊さを放っている部分である。天上の煌めきと深淵の闇は相反するようでどこか通じるものがあるのだ。

ZOC「family name」

引きこもり、ヤンキー……という異色な出自と大森靖子の痛切な詞が相まって胸を抉る、ZOC「family name」(2019年)

アイドルに興味のなかった熟年の音楽ファンが、アイドルにハマっていく。それはかつてのアイドルブームを象徴するものだった。しかし、多種多様性を帯びていく中で若いアイドルファンも増えた。かつて、フォークシンガーやパンクロックバンドが“若者の代弁者”として崇められたのと同様、アイドルもそういう存在になってきているのだと思う。

“弱ってるときに聴くアイドルソングは麻薬——”なんて言葉もあるが、その本質は今も昔も変わってはいない。ただ、その入口が増えてきているのである。

このネタ読んでどう思う?

投稿ありがとうございます。
よかったらログインしてコメントも書きませんか?閉じる

このネタへのコメント0

コメントを投稿するにはログインが必要です。

ログインしてコメントを書く

カテゴリ別アクセスランキング

トップ