「ネタりか」終了のお知らせ

いつも「ネタりか」をご利用いただきありがとうございます。

この度「ネタりか」は、2019年10月16日(水)をもちまして、サービスを終了させていただくことになりました。

これまで長きにわたりご利用いただき、ありがとうございました。

ド平日の昼間、NHKホールの高揚〜純烈物語<第6回>

2019/8/17 08:30 日刊SPA!

NHKホール公演の直前、純烈メンバーと記者会見に臨んだ、スーパー・ササダンゴ・マシン(マッスル坂井)と鶴見亜門(今林久弥) NHKホール公演の直前、純烈メンバーと記者会見に臨んだ、スーパー・ササダンゴ・マシン(マッスル坂井)と鶴見亜門(今林久弥)

―[白と黒とハッピー~純烈物語]―
◆「白と黒とハッピー~純烈物語」第6回

マッスルテイストによる純烈公演
『NHKホールだよ(秘)大作戦』に潜入

「今度、マッスルのみんなとマッスルテイストのお芝居をやるんですよ。マッスル(坂井)が台本を書いて、今林(久弥)さんも出演するんです」

 それを酒井一圭から聞いたのは、5月の大江戸温泉ライブの取材時だった。インタビューを終え、これからステージの準備に取りかかるためいったん席を離れるさいに、テレビ番組の予告編のようなタイミングで振ってきた。明らかに何かを企んでいる目つきをしており、頭の中へいかにも筆圧が高そうなフォントで「乞うご期待!」という文字がグワーンと浮かんできた。

 立場上、マッスルサイドからもどんなものになるのか探ることはできたのだが、これはまっさらな状態で見た方がいいと思った。酒井が前衛的プロレスイベントの「マッスル」に出演していた時も、そのようなスタンスで眺めることにより驚きや楽しさを味わい、心を揺さぶられていたからだ。

 酒井のプロフィールに出てくる「プロレスラーとしてリングに上がる」という過去。ステージ上でムード歌謡曲を歌い上げている姿からは想像もできない経歴は、当時を知る者でなければ想像し難いと思われる。

 だが、子役時代からさまざまな経験を積んできた酒井にとって、プロレスに携わっていた時期は忘れることのできぬ特別なもの。また、どこかで現在の純烈にもちゃんとつながっている。

 もっとも、プロレスラーといっても新日本プロレスや全日本プロレスのような昭和の時代から脈々と受け継がれるトラディショナルなリングではなく、価値観が多様化した平成プロレスシーンの中でマッスル坂井が生み出したカウンターカルチャー的な表現の場。それまでの概念にとらわれぬ演劇的手法や、映像を駆使した斬新な見せ方で熱烈な支持を得た世界観の住人として、喜びと苦悩を分かち合った。

 もちろん、試合そのものに関しては酒井も体を張ってリングへ上がった。さる8月12日、新日本が毎年真夏に開催する最強戦士決定リーグ戦「G1クライマックス」で初優勝を果たした“ゴールデン☆スター”飯伏幸太とのシングルマッチも経験し、プロの技を逃げることなく受けている。

 痛みを共有し、さらには観客に楽しんでもらうための産みの苦しみも一緒に経験したあの頃は、酒井にとって遅れてきた青春のようだった。役者としてなかなか世に出ることができずにあがいていた自分には貴重な表現の場であり、みんなで物作りをする喜びにありつけた。

 坂井がプロレスラーを引退し、家業の金型工場を継ぐことにより2010年10月にマッスルは惜しまれつつ最終回を迎える。20年後、選手たちの子どもが集い、再開させるという未来へと続くドラマを残して。

 マッスルが終了する4か月前に純烈はファーストシングルをリリースしており、すでに新たなる道を歩み始めていた。今思うと、そういうタイミングだったとしか言いようがない。

 酒井のように、マッスルはプロレス以外のジャンルに携わる者たちがそこで培ったものをリングへフィードバックする場でもあった。劇団双数姉妹の役者だった今林久弥が鶴見亜門という狂言回し的ポジションを担えば、坂井自身もレスラーとしてよりもサブカル方面からインスパイアされる種を見つけていた。

 おそらくこの時点で、酒井の中には純烈で成功しマッスルへ還元する日を夢見ていたと思われる。そしてそれは今年2月に現実のものとなる。

◆「本当に面白いことをやる時は、告知しないようにするんです」

 2030年の復活を“前倒し”とし、8年ぶりにマッスルが一夜限りの復活を遂げる。当時は後楽園ホールがMAXだったが、今回は両国国技館という大舞台。

 マッスル坂井も金型工場の専務との兼業でプロレスに復帰し、今では「スーパー・ササダンゴ・マシン」というマスクマンとして煽りパワーポイントなるプレゼンスタイルを確立させ、バラエティー番組に引っ張りだことなっている。8年間の中でそれぞれがグレードアップし、それを注ぎ込んだマッスルはマニア層だけでなく純烈が出演するからと足を運んだマダム層にも響く、極上のエンターテインメントとなった。

 純烈にとっては初のNHKホールにおける単独公演であり、またワンマンでは結成以来最大規模のショーは『純烈のNHKホールだよ(秘)大作戦』と銘打たれていた。ポスターのチラシに躍るフォントを見れば、それが昭和のお化け番組『8時だョ!全員集合』をモチーフとしているのは明らかだった。

 ただ、その内容に関しては当日まで明かされず。マッスルのテイストでやるということを断片的にツィートするだけで、詳細を伏せた。「本当に面白いことをやる時は、告知しないようにするんです。それでも来てくれる人の嗅覚がすごいというようにしたいんで」と、酒井は言う。

 マッスルを追い続けてきたプロレスファンは、その切り口で描かれる坂井の“作品”に関しては試合であってもトークイベントであっても追いかける熱量を持っている。だからあとになって、純烈という枠の中でそれが密かにおこなわれたことを知ったら「やられた!」と思ったはず。

 何よりも純子と烈男の皆さんに、マッスルの味付けによる純烈を堪能してほしかった。北沢タウンホールで数百人のオーディエンスの前でやっていたスタイルがNHKホール規模のアウェイで受け入れられれば、それはプロレスの興行としておこなわれた両国国技館とはまた違った意義がある。

 1部を芝居とし2部構成にしたのも、コントのあとに歌のコーナーがあった“全員集合感”が否応なく漂う。坂井が酒井からこの公演の話を聞いたのは、4月下旬だった。ただ、この時点では今林とともにゲスト出演してほしいというオファーだった。そこからいろいろ話すうち、5月頭の時点で「台本も書いてくれないか?」に変わった。

「俺たちが紅白に出られたらマッスルにハクがつくから頑張るよ」と過密スケジュールの中、その日だけは空けてメンバー全員で出演した純烈に対しお返しができる――8年前はギリギリまで台本が書けず苦しんだ坂井が、1か月で完ぺきに仕上げた。

「今回は演出が小池竹見さんという双数姉妹を主宰していた方で、純烈はもちろん、ゴスペラーズとかケツメイシのショーも演出している早稲田大学の先輩なんです。だから安心して相談できたし、僕の台本を純烈のNHKホールにふさわしい形で演出してくれました。

 1月に純烈が出演した前川清さんのショー(明治座)を見にいった時にその構成、空気感を持ち帰って2月のマッスルにも生かせた。それがあったからNHKホールでもこういうことができるという確信がありましたね」(坂井)

 小池が今林と小劇団で苦楽をともにした時代から坂井は付き合いがありその後、純烈の演出担当となりステータスを上げていることも知っていた。さらには、マッスルに不可欠な映像製作やライブにおけるV出し、音響にいたるまで当時のスタッフで固めた。目の前に広がる客席はアウェイであっても、舞台上と楽屋裏に関してはホームリングの風景の中でやれた。

◆ド平日の昼間、NHKホールの高揚

 昼間のド平日。正午すぎにNHKホールへ着くと、会場前は少女のような高揚を包み隠すことなく語り合うおびただしい数のマダムによって埋め尽くされていた。そこを通り過ぎて関係者入り口へと回り中に入ると、今度は山のような報道陣が一角に集まり待機している。どうやら最終リハのあとに、囲み取材の時間が設けられているようだ。

 下手の袖からステージを覗くと、バービーボーイズの『目を閉じておいでよ』のリハーサル中。舞台上をさえぎるかのようにそびえ立っていたのは、マッスル両国で純烈の新メンバーとなりながら、女子プロレスラー・藤本つかさとの不倫疑惑を東京スポーツ紙にすっぱ抜かれ、その日のうちにクビとなったアンドレザ・ジャイアントパンダだった。

「いや~、ついにNHKホールまで来ちゃいましたよ。この勢いでいって、僕らも純烈さんと年末の紅白に出られたらいいなあ。今回も呼んでもらい、本当にありがたいです」

 こちらに気づくや、場違いの中でようやく知り合いを見つけた安堵感そのままに声を震わせながら、マネジャーである新根室プロレスのサムソン宮本が声をかけてきた。もちろん、その隣には3メートルの巨体で首を縦に振るアンドレザの姿があった。

 プロレス界で突然変異的に人気爆発となったアンドレザ。根室という日本の北端で地元の皆さんを喜ばせるためにやっていたことがどんどん巨大化していく戸惑いの中で、こうした舞台に立てる喜びも笹の葉へかぶりつくかのごとく噛み締めていた。

 しばらくしてリハが終わると、メディアが待ち構えるブースに4人……ではなく6人がやってきた。純烈のメンバーだけでなくササダンゴと今林も何食わぬ顔をして、ワイドショーでよく見る会見の光景に溶け込んでいた。

「純烈結成前から応援してきてくれた人たちとやりたかったんです」と、酒井は明快なまでにこの公演の意図をまず口にした。しかしそこを掘り下げる質問は飛ばず、光の速さで流された。ああ、これがマッスルとは違うフィールドということなのかと思った――。

(つづく)

撮影/ヤナガワゴーッ!

【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」

―[白と黒とハッピー~純烈物語]―

このネタ読んでどう思う?

投稿ありがとうございます。
よかったらログインしてコメントも書きませんか?閉じる

このネタへのコメント0

コメントを投稿するにはログインが必要です。

ログインしてコメントを書く

カテゴリ別アクセスランキング

トップ