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ロックアーティストのテクニック向上に大きな役割を果たした『スーパー・セッション』

2019/8/2 18:00 OKMusic

1968年にリリースされた本作『スーパー・セッション』こそ、ジャムセッションという概念をロック界に定着させた最初の作品であり、実際にジャムセッションを通して、後のロックアーティストたちの演奏技術が大幅にレベルアップすることになった。仕掛け人は天才アル・クーパー。これまで、このコーナーでは彼が関わった数枚のアルバムを取り上げてきたが、60年代後半から70年代中期にかけて彼がロック界に残した功績は非常に大きい。それまで歌のバックを務めることがメインであった楽器群にスポットを当て、各プレーヤーに演奏することの重要性に気付かせ、即興演奏や高い表現力を求めることになった。本作の存在によって、ロックの進化の方向性が決まったと言っても過言ではない。ロック史に残る最も重要なアルバムのひとつだろう。

ジャムセッションについて

70年代には、すでにロック界でもジャムセッションは普通に使われる言葉になっていたが、60年代後半までこの言葉はジャズの専門用語であり、ロック界で使われることはあまりなかった。ロックのアーティストたちはオリジナルの楽曲を演奏することが多く、即興で合わせることには向かなかったのだ。また、所属するレーベル(レコード会社)やグループの枠を超えて他者と演奏することが少なかったこともジャムセッションが広まらない要因であった。

一方、ジャズ界はオリジナル曲にさほど重きを置かず、誰もが知るスタンダードナンバーをアーティストなりに如何にアレンジするかのほうが重要であった。何より名演を生み出すこと、これこそがジャズアーティストにとって最大の命題である。有名なところではミントンズ・プレイハウスのアフターアワーズ・セッションがある。仕事で組んでいるグループとは違ったメンバーと、楽器のテクニックを磨いたり、新たな表現法を生み出したりするために、毎夜セッションが繰り広げられていた。それまでリズム楽器でしかなかったギターをサックスやピアノのようにソロを弾くことで新たな可能性を見出した天才ギタリストのチャーリー・クリスチャン、変わったコード進行の名曲を数々生み出したセロニアス・モンク、モダンジャズの父のひとりディジー・ガレスピーらが、毎夜のようにジャムセッションで名演をものにしており、それらの一部はライヴ盤の『ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン』(‘41)に収録されている。クリスチャンはフランスのジャンゴ・ラインハルトやレス・ポールと並んでギター界の巨人であるが、1942年に25歳という若さで亡くなっている。

エレクトラ・レコードの 不思議なサンプラー 『ホワッツ・シェイキン』

ロック界に話を戻すと、最初にジャムセッションを行なったのが誰かは不明だが、ジャム的な意味合いを持った作品はある。1966年にエレクトラレコードのサンプラーとしてリリースされたコンピレーション『ホワッツ・シェイキン』がそれだ。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったポール・バタフィールド・ブルース・バンドと、ジョン・セバスチャン率いるラヴィン・スプーンフルの2グループを中心に組まれた作品だが、クリーム結成前のエリック・クラプトンがパワーハウス名義で3曲、エレクトラの看板フォークシンガー、トム・ラッシュが1曲、アル・クーパーが1曲(!)収録されている。

不思議なのはラヴィン・スプーンフルは違うレーベル(カーマ・スートラ)に所属しているし、ソロアーティストデビューとなるアル・クーパーもエレクトラと契約はしていない。クラプトンのパワーハウスに至ってはスペンサー・デイヴィス・グループに在籍していたスティーブ・ウィンウッド(レーベル違いのため変名で参加)とピート・ヨーク、マンフレッド・マンのポール・ジョーンズとジャック・ブルースらが参加しており、要するにこのアルバムのためだけに集まった完全なセッショングループなのである。そう、セッション…なのだ。違うレーベルのスターたちを使う(利益が出ない)エレクトラの意図はよく分からないが、おそらく、この『ホワッツ・シェイキン』こそがロック界初の隠れたジャムセッション作である。余談だが、このセッションでの「Crossroads」や「Steppin’ Out」は、すでにクリームのイメージに近く、クラプトンは『ホワッツ・シェイキン』に参加することで、この後すぐに結成するクリームのサウンドイメージを固めていたのだと思う。

アル・クーパーは『スーパー・セッション』の着想について、67年にリリースされたアメリカ西海岸の人気グループ、モビー・グレープの『グレープ・ジャム』に参加したことで思いついたと語っているが、それは違うと言いたい。彼は『ホワッツ・シェイキン』のことを忘れているのか、何らかの理由でわざと言ってないのかのどちらかだと思う。『スーパー・セッション』のイメージは『ホワッツ・シェイキン』所収のクラプトン&パワーハウスに最も影響されていると僕は考えている。

アル・クーパーの戦略

『ホワッツ・シェイキン』のことはさておき、早熟なアル・クーパーはポップソングのソングライターとして活躍する傍ら、ジャズを演奏するのが好きだった。だから、ロックでもジャズのようにジャムセッションを取り入れることで、技術面での大幅なレベルアップが図れると考えていたようだ。そんな理由から、黎明期のロックはブルースやR&Bを模倣・展開することで成長してきただけに、ブルースの定番曲ならミュージシャンなら誰でも演奏できるはずだとアルはその企画をコロンビアレコードに持ち込んだ。

クーパーはボブ・ディランの傑作『追憶のハイウェイ61』(‘65)への参加(マイク・ブルームフィールドも参加)や、同じくディランのニューポート・フォークフェスでの有名なブーイング事件時にバックを務めるなど、すでに大物アーティストとなっていたからか簡単に企画は通り、まずは当時アメリカで最高のギタリストとして知られていたクーパーの盟友マイク・ブルームフィールドに電話を入れる。

本作『スーパー・セッション』について

ブルームフィールドは自身のグループ、エレクトリック・フラッグを抜けたばかりだったので、参加を快諾する。ただ、彼は不眠症に悩まされており、体調が優れないことは問題だったが、2日間しかスタジオを借りていないのでセッションで穴を開けるとはクーパーは夢にも思わなかった。ところがブルームフィールドはアルバム半分の6曲を撮り終えたところで、体調不良のためにギブアップしてしまう。焦ったクーパーはちょうどバッファロー・スプリングフィールドを解散したばかりのスティーブ・スティルスにピンチヒッターとして参加を要請、残りの半分でスティルスがギターを弾くことになる。そして、これがスーパー・セッションとして大きな意味を持つことになる。

バックを務めるのはエレクトリック・フラッグでブルームフィールドとともにプレイしたベースのハーヴェイ・ブルックスとキーボードのバリー・ゴールドバーグ、ドラムにはドノヴァンやモンキーズのバックを担当した名手エディー・ホーという面子。ギターがブルームフィールド一人だけならエレクトリック・フラッグの番外編としか捉えられなかっただろうが、普段あまり絡みのないスティルスが加わることで、ジャムセッション的な意味合いが一気に高まったのだ。

この時、スティルスはまだアトランティックレコードとの契約が残っており、コロンビアレコードで本名のまま録音するのは問題だというレーベル側からのクレームがあった。当時、レーベルが異なるレコーディングに参加する時は、名前を出さないか偽名で出るかのどちらかであった。これにはレーベル側として他のレコード会社所属アーティストの宣伝する必要はないという至極まっとうな理由があるのだが、クーパーはセッションだからとレコード会社側を説得、“Courtesy of Atlantic Records”という今ではよく使われるフレーズをジャケット裏に記すことにした。“Courtesy of 〜”とは“〜の好意で”という意味である。この“Courtesy of”という言葉が使われたのは『スーパー・セッション』が最初かもしれない。どちらにせよ、ブルームフィールドがギブアップしてくれたおかげで、このアルバムのセッション作としての存在感が圧倒的に増すことになった。

収録曲は全部で9曲。ブルームフィールド・サイドの5曲は、バタフィールド・ブルース・バンドやエレクトリック・フラッグを思わせるブルース+R&B的サウンドが中心で、やはり熱いギターが素晴らしい。彼のギターってミストーンも少なくないのだが、情感あふれる表現力がそれ以上なのだ。9分以上に及ぶ「His Holy Modal Majesty」はジャズ的なフレーズも飛び出すなど、まさにセッションにふさわしい仕上がりとなっている。

スティルス・サイドは4曲。ディランやドノヴァンの曲を取り上げ、スティルスのボーカルもたっぷり聴ける。11分強の「Seasons of the Witch」がスティルス・サイドの最高の成果だろう。スティルスはロック的な演奏がメインなので、ブルームフィールド・サイドとは違う魅力がある。

『スーパー・セッション』のライヴ版『フィルモアの奇蹟』もリズムセクション(ベース:ジョン・カーン、ドラム:スキップ・プロコップ)が良い仕事をしていたが、本作でリズムセクションを担当するベースのハーヴェイ・ブルックスとドラムのエディー・ホーも実に上手いプレーヤーなので、そのあたりもよく聴いてみてほしい。68年の時点で世界のロック界を牽引していたのは、クーパーとブルームフィールドのふたりであることは間違いないだろう。本作『スーパー・セッション』はロックの新時代の幕開けを感じさせる、まさにエポックメイキングな作品であった。

TEXT:河崎直人

アルバム『SUPER SESSION』


1968年発表作品



1. アルバートのシャッフル/Albert's Shuffle
2. ストップ/Stop
3. マンズ・テンプテーション/Man's Temptation
4. 彼の様式化された神聖なる威厳/His Holy Modal Majesty
5. リアリー/Really
6. 悲しみは果てしなく/It Takes a Lot to Laugh, It Takes a Train to Cry
7. 魔女の季節/Season of the Witch
8. ユー・ドント・ラヴ・ミー(夜明けに恋はない)/You Don't Love Me
9. ハーヴェイの作った曲/Harvey's Tune
〜ボーナストラック〜
10. アルバートのシャッフル (ノー・ホーンズ・ミックス)/Albert's Shuffle (2002 Remix w/o Horns)
11. 魔女の季節 (ノー・ホーンズ・ミックス)/Season of the Witch (2002 Remix w/o Horns)
12. ブルース・フォー・ナッシング/Blues for Nothing
13. ファット・グレイ・クラウド/Fat Grey Cloud

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