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底なしに怖い!働く女子の琴線にビビビっと触れる、映画『よこがお』に潜む恐怖の正体

2019/7/26 11:00 Suits-woman.jp

『淵に立つ』でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した深田晃司監督の最新作は映画『よこがお』。前作での演技が高く評価された筒井真理子と再び組んだ、絶望を巡る物語です。そこになんらかの希望が?筒井真理子の超絶美しい横顔に潜む奥行き、池松壮亮の絶妙なさじ加減の色気、市川実日子が体現する一筋縄でいかない人間という生きもの。いや~、衝撃作です!

『よこがお』(配給:KADOKAWA)
●脚本・監督:深田晃司 ●出演:筒井真理子 市川実日子 池松壮亮 須藤蓮 小川未祐 吹越満 ●7月26日より角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国公開

(あらすじ)
美容院の客として偽名を使い、美容師の和道(池松壮亮)の前に現れた女(筒井真理子)。女の本名は市子。半年前まで、訪問看護師として働いていた。定期的に通う訪問先の大石家とは家族ぐるみで交流が。ときに長女基子(市川実日子)の、介護福祉士になる勉強を見ることもあった。ある日、基子の妹で中学生のサキ(小川未祐)が行方不明に。市子は事件への関与を疑われる……。

■小さな違和感が連続するストーリー

映画『よこがお』には、冒頭から奇妙な緊張感が漂います。筒井真理子演じるごく平凡な、わりと品のよさそうな中年女性。彼女は初めて訪れた美容院で、池松壮亮演じる美容師の和道を指名します。「どこかでお会いした気がするんです」「いえ初めてです。死んだ夫と同じ名前で」。ああそういうこと!夫を失った孤独な女性の話かしら?つぎの展開を待つとその数日後、女は和道が利用する自宅近くのゴミ捨て場で彼をまちぶせ。「あら!」みたいに偶然を装い、和道の連絡先を聞き出します。……ん?なんかヘンだな、この女の人。映画には以後も、そんな小さな違和感が連続します。特に説明はないまま過去と現在を交互に提示、さらに妄想や夢も挟まれ、やがて結末へ――そんな構成です。

物語が進むにつれ、主人公の市子は半年程前まで訪問看護師として働いていたことが知らされます。とてもキチンとした働き方で、職場でも、定期的に訪問する大石家でも厚い信頼を得ていたこともわかります。例の「小さな違和感」は気のせいか……そう思ったころ、とても決定的な事件が。それまで強固に思えた世界はガラガラと崩れ落ち、市子はしだいに追い込まれて行くのです。

こうして大枠を説明しても、この映画に込められた恐怖は全然伝わらない気がします。はて、どうしたものか?困りました。

訪問先で、とても感じのいい看護師としてキチンと働く市子。はたしてこの人、何者?

■筒井真理子の女優力に圧倒!

主人公の市子を演じる筒井真理子は、なんだかもう、スゴイことになってます。『淵に立つ』の深田晃司監督とはよほど相性がいいのでしょう。例えばこんなシーン。なんとなく正体を偽っている、でもそれを悟られまいとごくナチュラルにそこにいる――みたいな、よく考えたらとてもミラクルな演技をサラっとやってのけて不自然さがありません。それでいて、そのシーンで提示しなければならない「小さな違和感」を観客の心の奥にしっかりと刻みつけます。また別のシーンでは、ちょっとした表情で彼女の現実的な心情が手で触れるくらいすぐそこにあるように思えるのです。またまた別のシーンでは突然、BOWWOW!みたいな犬の咆え声を真似るのですが、ただそれだけなのに「……なんか怖い」みたいなことになる。とにかくすげぇのです。

個人的に衝撃だったのは、市子のある夢。公園にやってきた市子は、四つん這いでドスどすと歩いています。その必死の形相、ふだんはどこか上品な佇まいの市子が……四つん這いって!その異様さと言ったらありません。しかもそこにコミカルさは微塵もなく、その後なんども繰り返してその映像が脳裏によみがえり、背筋がゾクっとするほどの恐怖を覚えます。なんなのだろう、これ?そうしたシーンを一つひとつ撮影現場で積み上げていったのかと思うと、筒井真理子という人の女優としての力に圧倒されます。

そんな市子が出会う和道を演じるのは池松壮亮。『だれかの木琴』でも常盤貴子演じる主婦を狂わせる色気たっぷりな美容師を演じていましたが、この映画の池松もかなりのお色気。女性の髪に触れるときの手つき、肩の力が抜けた佇まい、そしてあの、人としての奥行を感じさせる眼差し。モテるよね~!みたいな在り方を絶妙なさじ加減で表現します。いやこの人はただそのままで、モテるよね~!って人なのかもしれませんけど。
 

市子役の筒井真理子と、和道役の池松壮亮。こんな美容師に髪を切ってほしい!

■他人事として観られない、市子の絶望

市子を慕う基子を演じる市川実日子はなんとなくいつもサラっとした印象で、飄々とした空気をまとっている女優さんに思えます。どろどろとした感情とは無縁、年齢を超えたかわいらしさや透明感が存在の核、みたいな。そんな彼女が市子を慕う、けれどゾワっとした攻撃性を備えてもいるとても複雑な役を演じます。だからこその、奇妙な説得力。深田監督はキーとなる場面ではわざと逆光にして、真っ黒な陰が覆う彼女の顔からその表情を読み取らせようとします。そんな演出も基子という役柄をより印象的にします。

そして深田晃司監督です。その演出の隙のなさ、これだけ微妙なさじ加減を求められる世界観を、隅々まで誤ることなく構築していく粘り強さ、繊細さ。これまた、すげぇ!のです。映画のラスト、これほどにドキドキさせるカットはなかなかありません。本当に恐ろしい。そしてふと、この怖さの正体はなんだろう?と考えてしまいます。この映画を思い出すとき、なんども脳裏に浮かぶ市子の四つん這い、BOWWOW!みたいな犬の咆え声。内に秘めた市子の絶望が、ひしひしと胸に迫るのです。女をやってるのは大変なんだよ! いや、そんな単純な話ではありません。でもしかし……。

映画は第72回ロカルノ国際映画祭へ正式出品が決定しました。そりゃそうだ!のクオリティー。暗闇の中、ひたすら画面と対峙するために、一人で映画館へ行くことをオススメします。

基子役の市川実日子(左)と、市子役の筒井真理子。この二人の間に、なにが?

文・浅見祥子

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