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湯河原「富士屋旅館」で堪能する 鮑のしゃぶしゃぶは背徳的な美味

2019/7/7 07:00 CREA WEB

湯河原「富士屋旅館」で堪能する 鮑のしゃぶしゃぶは背徳的な美味 湯河原「富士屋旅館」で堪能する 鮑のしゃぶしゃぶは背徳的な美味

vol.36 湯河原

 2019年4月1日という、日本人の誰もが記憶するだろうその日の夜に、湯河原「富士屋旅館」でご飯をいただいた。

 ここは老舗旅館を新たにリノベーションして始めた旅館である。

 元は、明治9年に始めた温泉旅館「聚芳園」で、藤木川に架かる橋を渡ると広い敷地に楼閣や別館が立ち並び、園内の花々が絶えることがなったと言われている。

 現存する建物の中でもっとも古い、大正12年に建てられた二階建ての楼閣風建築「旧館」は、檜による細身の建築で、客室の座敷飾り、縁側、廊下など外回りの建具に繊細な組子入り硝子戸を多用する、大正期の建築の特色をよく示している。

 夕食はダイニングでいただく。

 お品書きの冒頭に“新元号「令和」、御目出度うございます”とある。

 ふふ。もうそれだけで気分が爽やかになった。

 料理は、地で採れた野菜や魚介、そして肉を、押し付けがましくなく、どこまでもさりげなく出してくれる。

 春を満喫した。


お造りの主役は大根のツマ?

 先付は、焼き筍 ハマグリ、ご飯で、優しい旨味が米一粒一粒に染みて、しみじみとおいしい。

 煮物椀は、「うすい豆すり流し サワラとイカとエビの桜餅」。

 豆の青々しくも甘い香りの中で、魚の穏やかな甘みが泳いでいく。

 向付は、「小田原のアジ ヤリイカ 石鯛お造り。

 魚はどれも、品のいい脂が乗って甘みがある、吟味されたものだが、「ツマが主役です」と言って出された大根ツマがいい。

 細すぎず太すぎず、ほどよい幅で切られ、魚のうまみと呼応しながらみずみずしく弾ける。

 焼き物は、名残の鹿肉とくるみ味噌 柚子胡椒である。

 終わりの時期である。だがそのしなやかで少し弱々しい滋味に、気品が漂って、惚れるのだ。


炊きたてのご飯に鮑の肝を……

 強肴は、出汁と酢 大根と京人参。素晴らしい。

 肉の凛々しさをスパッと切りながら、大根と人参の慈愛が伝わってくる。

 心が安寧になる味わいである。

 揚物は、 鰻と、丸十、菜の花。こちらもほっくりとした気持ちにさせられる、優しい味わいである。

 そしてコース最後は、品書きに「祝」の赤文字が記され、その下に鮑と記されたクライマックスがやってきた。

「鮑しゃぶしゃぶ 鮑キモソースと味醂」である。

 見事な鮑である。500グラム以上はあるだろうか。

 これを酒が9割という鍋つゆにくぐらせ、肝のつゆにつけて食べるのである。

 ははは。

 もうこれだけで笑うしかない。

 さっとつゆをくぐらせれば、磯の香りと歯ごたえが弾け、しっかりと火を通せば、噛むほどに甘みを感じる味となる。

 今度はさっと、今度はじっくりと繰り返し、その度に盃を開けるのである。

 食べながら、申し訳ないという気持ちが湧いてきた。

 しかし罪悪感が湧く食事は、至福の時を連れてくる。

 最後は、炊きたての白いご飯。

 ここに肝つゆをかけてよくよく混ぜたら、肝茶漬けの要領で、ザブザブと掻き込むのである。

 さらに罪悪感を膨らませたのであった。

富士屋旅館

所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上557
電話番号 0465-60-0361
http://fujiyaryokan.jp/

マッキー牧元
(まっきー・まきもと)

1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。


文・撮影=マッキー牧元

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