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蜷川実花×藤原竜也「ダイナー」に魂の引き継ぎを観た。この映画は、食堂は、死と生のカーニバルだ

2019/7/6 09:45 エキレビ!

Diner ダイナー配給: ワーナー・ブラザース映画(C)2019 「Diner ダイナー」製作委員会 Diner ダイナー配給: ワーナー・ブラザース映画(C)2019 「Diner ダイナー」製作委員会

クセの強い殺し屋だらけ


まるでカーニバル。そんな気持ちになった2時間弱(117分)。天才シェフ・ボンベロ(藤原竜也)が切り盛りする、殺し屋に食事を提供する〈ダイナー〉。流れ流れてそこで働くことになった身寄りもお金もないオオバカナコ(玉城ティナ)は、続々来店する殺し屋たちのイカレ具合に翻弄されていく。
全身傷だらけのスキン(窪田正孝)、幼い子どもに見えて実は……のキッド(本郷奏多)、昆虫を愛でるマテバ(小栗旬)、セクシーな女王様マリア(土屋アンナ)、男装の麗人・無礼図(真矢ミキ)、好物に偏執的にこだわるコフィ(奥田瑛二)……とクセの強い者たちが殺しの技を競い合う。

暴力描写が濃密な平山夢明の傑作ノワール小説を、2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会理事もつとめる写真家にして映画監督でもある蜷川実花が映画化。「noirノワール」(10年)という写真集も出したことのある蜷川実花が手がけたら、ハードボイルドな世界がダークファンタジーに塗り替わったようだった。
オオバカナコ演じる玉城ティナのウエイトレス姿は不思議の国のアリスみたいで、ただし迷い込んだ先は極彩色の死の世界。蜷川実花が写真作品のモチーフにしているポップなメキシコの死者の祭りをうまく取り入れてド派手な殺し合いの場・ダイナーを神聖な祝祭空間に高めた。


映画ではクズ系キャラを演じることの多い藤原竜也が今回は「俺はここの王だ 砂糖の一粒までが俺に従う」などと言い放つオラオラ系に見えて、料理に向き合う姿勢も手際が極めて厳格だ。
藤原がドンっと立って揺らがない貫禄を見せる一方で、藤原ボンベロと旧知の仲である殺し屋・スキンを演じる窪田正孝が揺れる哀感を漂わせていて、その対比に見応えがあった。スキンは腕の立つ殺し屋で歴戦の勲章のように顔も体も傷だらけで「雑巾男」と呼ばれるほど。「シザーハンズ」のジョニー・ディップに代表されるティム・バートンの描く哀しげな愛らしさのあるキャラクターたちのようだ。ふだんは物静かでオオバカナコにもとても優しく、好物のスフレをダイナーで食べることを楽しみにしている。スフレに瞳を輝かせる様は「アメリ」のよう。窪田正孝、女子の夢に溢れている。
スキンのその生き方に関してボンベロの語るセリフがグッとくる。それはぜひ映画を見てほしいが、冷たいようでボンベロはスキンのことを理解している。かように世の中には一般的にはよくわからない生き方をしている人もいるので、「Diner」はいわゆる少数派の気持ちに寄り添っている。


殺し屋という特殊な仕事を生業にしているダイナーの客たちは各々の殺しの美学ーー裏を返せば、独自の生きるルールをもっている。着る服もメイクも行動原理も殺し方も誰にも従わず自由だ。次々出てくる俳優たちは、出番がそれほど長いわけではないながら個の強さを放ち忘れられない存在になる。斎藤工、佐藤江梨子、金子ノブアキ、武田真治なども各所で自分の存在証明をしっかりしている。犬の菊千代の重量感もすごい。反して、個性が際立ちすぎる彼らと違うのは、冒頭、オオバカナコが疎外感を覚える現実世界のイメージ映像だ。オオバカナコの周囲をたくさんの人たちが無表情で機械的に通り過ぎていく。そこから逃げた最果てにあるのがダイナーで、オオバカナコを待つのは生か死か……。


蜷川幸雄オマージュが止まらない。


さて。ここからはかなりマニアックな見方である。映画の後半、殺し屋組織の熾烈な跡目争いが具体化し、ボンベロも参戦する。組織を長らく束ねてきたボス・デルモニコは、なんと蜷川実花の父であり藤原竜也の育ての親である世界的演出家・蜷川幸雄なのである(蜷川実花が撮った遺影がボンベロの肖像の元になっている)。
演劇の世界に多大な貢献をしてきた蜷川が2016年に亡くなったことは演劇界のみならず日本の芸能の世界にとって大事件であった。正直なところずいぶんベタに登場させたなあと思いもしたが(時々、これは喜劇なのかと疑いがもたげるときもあった)、蜷川を重要な役デルモニコに起用しようと思いついたのはプロデューサーだそうで、こういった仕掛けによって蜷川実花や藤原竜也に特別なバイブレーションを沸かせようというプロデューサー的視点もわからないことはない。神に触れるような行為はある程度、対象と距離があるからこその英断かなあとも思う。それに、生と死の象徴にはこれほどふさわしい人物もいないことも確か。藤原竜也演じるボンベロの置かれた心理状態にも、蜷川幸雄をボンベロの恩人とすることでリアリティーが俄然出てくる。


その結果、映画はどこを切っても極彩色の蜷川実花ワールドと思いきや、ビジュアル的な部分から音楽まで、そこらじゅうに蜷川幸雄の演劇を見てきた者にはわかるオマージュが散りばめられている。蜷川演劇に出ていた俳優も多い。藤原のデビュー作「身毒丸」の初代身毒丸だった武田真治、藤原の代表作のひとつ「唐版 滝の白糸」を引き継いだ窪田正孝、「ムサシ」で藤原竜也演じる宮本武蔵のライバル佐々木小次郎を演じた小栗旬など。蜷川率いる若手劇団さいたまネクスト・シアターで活躍した内田健司も出ている。蜷川幸雄みたいな人物を演じるのは、蜷川の舞台にも出演し、“偽川幸雄”と言ってものまねもしていた井手らっきょという徹底ぶり。ほかにもおなじみの俳優たちが参加している。
そこまで蜷川幸雄の要素を映画に惜しげもなく注入したことでことさら興味深かったのは、前述した冒頭の無表情で機械的な群衆だった。こういうことを蜷川幸雄は絶対やらず、群衆を演じる俳優たちに集団に埋もれないように厳しく要求していた。花を天井から落とすときも演出部のエースを中心に生々しくぽたりぽたりと演じるように神経を集中させて一個一個落としていたのだ。それがない世界……蜷川幸雄の不在から映画「Diner ダイナー」ははじまる。悲しみと危機感を映画の原動力のようにして、乱れるように雨や花を降らせ、世界が壊れるように暴走が加速するアクションシーンは、狂い舞うことで死者を蘇らせたいという儀式にも見えてくる。むくりと起きてきて「ぼーっと生きてんじゃねーよ!」と叱ってほしい、そんな気持ち。それは巨匠に限ったことではなく、誰もがもつ失くしたものへの痛切な祈りである。
蜷川幸雄とも親交のあった横尾忠則(大河ドラマ「いだてん」の題字も手がけている)が、ダイナーの店内に飾ってある絵画の数々を手がけ芸術性の高さを誇っている。とりわけ、印象的に登場する、手が描かれた巨大な絵を見ていると、蜷川幸雄が藤原竜也の海外デビュー公演のとき腰を痛めながらも出ると泣く藤原のこの手をとらなかったら……と思って彼を舞台に立たせたという逸話を思い出す。「Diner」という食堂は、生と死と、魂の引き継ぎの磁場である。合掌。
(木俣冬)

出演:
藤原竜也 
窪田正孝 本郷奏多/武田真治 斎藤 工 佐藤江梨子 金子ノブアキ
小栗旬/土屋アンナ/真矢ミキ/奥田瑛二
 
原作:平山夢明『ダイナー』(ポプラ社「ポプラ文庫」)
脚本:後藤ひろひと 杉山嘉一 蜷川実花  
音楽:大沢伸一
主題歌:DAOKO×MIYAVI 「千客万来」(ユニバーサル ミュージック) 
監督:蜷川実花
配給:ワーナー・ブラザース映画  
(C)2019 「Diner ダイナー」製作委員会  
(C)2019 蜷川実花/映画「Diner ダイナー」製作委員会
公式サイト:diner-movie.jp
公式Twitter:@DinerMovie
公式Instagram:@dinermovie 
#ダイナー

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