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「いだてん」第2部スタート直前、第1部をじっくり振り返った、凄かった、配信停止部分がもったいない

2019/6/29 10:15 エキレビ!

NHK出版『NHK大河ドラマガイド いだてん 後編』。赤いスーツで水に潜る田畑政治(阿部サダヲ)をあしらった横尾忠則によるビジュアルが鮮烈である NHK出版『NHK大河ドラマガイド いだてん 後編』。赤いスーツで水に潜る田畑政治(阿部サダヲ)をあしらった横尾忠則によるビジュアルが鮮烈である

NHKの大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(総合テレビ、毎週日曜よる8時)は、6月23日放送の第24話(きょう6月30日午後1時5分より総合テレビで再放送)をもって第1部が終了し、明日の第25話より第2部に入る。主人公も、日本人で初めてオリンピックに出場したマラソン選手・金栗四三(中村勘九郎)から、日本水泳界を指導者として牽引し、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治(阿部サダヲ)へと交代する。この機会に、第1部をいくつかの切り口から振り返っておきたい。

森山未來の一人二役に驚かされる


「いだてん」は1月のスタート以来、毎回果敢に新たなことにチャレンジしていて、意表を突かれるばかりだ。脚本が面白いのはさることながら、それをいかに映像として見せるか、キャストとスタッフが総力を結集して作品をつくりあげていることがひしひしと伝わってくる。演出面でいえば、CG、ドローン撮影、プロジェクション投影など新たな技術の導入が目につく一方で、ロケによって本物を見せようという心意気も感じられる。とくに、ストックホルムオリンピックを描いた一連の回では、実際に当時使われたスタジアムでロケを行なったり、レース中に倒れた金栗四三を介抱した現地の住民をその子孫である人たちが演じたりと、本物志向ここにきわまれりという演出となった。

マラソンや駅伝のレースも描かれるたびに工夫が凝らされる。ストックホルムオリンピックの予選会は、現実のマラソン中継を模して描かれた(第5話)。かと思えば、金栗四三の発案で始まった第1回箱根駅伝は、1961年正月の寄席で志ん生とその弟子たちが駅伝よろしくリレーしながら語るというスタイルがとられた(第19話)。このとき、志ん生・五りん(神木隆之介)・今松(荒川良々)に加え、普段は若き日の志ん生=美濃部孝蔵役(ちょうどこの回は出番がなかった)の森山未來が一人二役で、志ん生の息子である金原亭馬生と古今亭朝太(のちの志ん朝)を演じて、視聴者を驚かせた。これは演出の大根仁の提案であったという。

なお、大根は大河ドラマでは初めてNHKの外部から演出陣に参加している。「いだてん」ではまた、第22話の演出をやはりNHK外から林啓史が手がけた。林は映画監督・俳優の塚本晋也(第2部で副島道正役で登場予定)に師事し、塚本監督の映画「野火」などで助監督を務めている。

志ん生の噺というスタイルは大発明!?


「いだてん」に対しては、週刊誌やネットニュースでは、「ドラマのなかで二つの時代が交互に描かれてややこしい」などと評され、それが視聴率低迷の原因だとあげつらわれているのをよく見る。しかし、こうした世評に対し主演の一人、中村勘九郎は雑誌の対談(相手は四三の妻スヤ役の綾瀬はるか)で、「筋はしっかり通っている」と反論し、次のようにあらためて説明している。

《この物語は一九六〇年、四年後にオリンピックを控えて盛り上がる東京で始まります。落語家の古今亭志ん生(ビートたけし)がこう語りだす。「あたくしもこう見えて、ちょいとばかしオリンピックかじったクチでして。あれは明治の終わりでしたな……」。つまりこれは、志ん生さんが寄席で語る「いだてん噺」なんです。オリンピックの東京初開催に至るまで、明治の終わりから昭和まで、先人たちのどのような努力があったのかを振り返っていく》(「文藝春秋」2019年7月号)

何とわかりやすい! 《その説明、すごく腑に落ちました》と、対談相手の綾瀬はるかでなくても言いたくなる。そう、ビートたけし扮する古今亭志ん生が寄席で語る「いだてん噺(オリムピック噺)」に映像をつけたものが、「いだてん」というドラマなのだ。志ん生が語る噺なのだから、史実とは違う部分も「脚色」として受け入れられるし、前半と後半で主人公が変わっても一貫性が保たれる。つくづく、こうした融通無碍な語りのスタイルをとったのは発明だと思う。

しかもユニークなことに、語り手は老年期の志ん生だけでなく、噺のなかに登場する若き日の志ん生=美濃部孝蔵(森山未來)もまた、その場で起こっていることを語ってみせる。さらには寄席でも、回を追うにしたがい、老志ん生が弟子の五りん(神木隆之介)に語りを任せる場面が増えてきた。とくに、大正時代に入ってからの女子体育の普及のくだりにおけるシマ(杉咲花)の活躍については五りんが語ることが多く、それはのちのち五りんの祖母がシマと判明する伏線となっていた。複数の語り手が存在することは、視点を多様にし、物語をより立体的に見せようという狙いもあるのではないか。

思いがけずドラマの内容と現実がシンクロ


劇中で孝蔵は、主人公の四三とたびたび行動がシンクロする。たとえば、孝蔵の初高座の場面では、前座には分不相応な大ネタ「富久」をかけ、出だしはさっぱりだったにもかかわらず、師匠の橘家円喬(松尾スズキ)のある教えを思い出した途端、エンジンがかかる。同じころ、ストックホルムオリンピックで敗北を喫した四三は、孝蔵が調子を取り戻すのとシンクロするように挫折から立ち直り、トレーニングを再開した(第13話)。このように、無関係であるはずの二人が、時折まるで心が通じ合ったかのように行動が重なる。それにもかかわらず、二人はたびたびすれ違いこそすれ、いまだに対面して言葉を交わしてはいない。老志ん生は、五りんの持っていた写真に祖母のシマと写った四三の姿を見ても、それが自分が語っている「オリムピック噺」の主人公だとは気づかずじまいだった。それでも、いつか二人が顔を合わせる日が来るのだろうか。

シンクロといえば、現実のできごとがその直近に放送された「いだてん」の内容と重なり合うということもたびたび起こった。第6話で、ストックホルムオリンピックの日本代表に選ばれながら一旦は辞退した四三に、恩師で大日本体育協会会長の嘉納治五郎(役所広司)は落胆して「がっかりだ」と言い放ったが、この直後、当時の五輪担当大臣が、来年の東京オリンピックで活躍を期待されていたものの病気で療養することになった選手について「がっかり」という言葉を用いて物議を醸した。

あるいは今年の東大の入学式で名誉教授の上野千鶴子が日本社会における性差別の根深さを語った直後の放送(第14話)では、東京女子高等師範学校の助教授の二階堂トクヨ(寺島しのぶ)が、「女のくせに生意気だ」という男からの罵声に、「この棚から落ちたぼたもちが!」と言い返していた。その言葉は、男がたまたま男に生まれたというだけで社会で優遇される状況に異議を唱えたものだった。すぐれたドラマは、たとえ過去を舞台にしても、そこに現在をも映し出そうとするがゆえに、思いがけず現実とシンクロしてしまうこともあるということだろうか。

このほか、スヤが第一子を出産した第18話の直後には、「いだてん」に出演する川栄李奈とシャーロット・ケイト・フォックスの第一子懐妊があいついで発表された。ついでにいえば、志ん生とおりん夫人の馴れ初めを描いた22話から、新婚早々離婚の危機を迎えるも何とか乗り切った23話までのあいだには、ビートたけしと夫人の離婚が報じられたが、これに関しては何とも間が悪かった。

架空の人物たちの活躍


「いだてん」は大河ドラマでは初めて「事実にもとづくフィクション」という断り書きを入れた。もっとも、過去にも架空の人物を主人公とした大河は複数あり、断り書きは入れないまでも事実にもとづくフィクションは「いだてん」がけっして初めてではない。宮藤官九郎が大河ドラマで好きな作品にあげている山田太一作の「獅子の時代」も、菅原文太演じる旧会津藩士と加藤剛演じる旧薩摩藩士という架空の人物を主人公に、幕末から明治の自由民権運動へといたる激動の時代を描いた。山田太一は、架空の人物を主人公とした理由を、明治時代を多面的、総合的に描くには、実在の人物ではどうもうまくいかないからだと説明している(『街で話した言葉』 筑摩書房)。

「いだてん」も主人公こそ実在の人物だが、その周辺には多くの架空の人物を配している。たとえば、車夫の清さん(峯田和伸)は、現実の志ん生に落語家になるよう勧めたという車夫がモデルになっているとはいえ、かなり創作が加えられ、四三と志ん生のあいだを行き来する物語上重要な役を担うことになった。

このほか、清さんと結婚した元遊女の小梅(橋本愛)、三島家の女中から一転、女子高師で体育を学んで陸上選手をめざしたシマ、そしてシマの孫であることがほぼ確定した五りんと、これらドラマのため創作された人々は実在の人物たちとかかわり合いながら、物語の展開に大きく貢献している。ここに、四三の同級生をモデルとしながら、いつのまにか『ゲゲゲの鬼太郎』におけるねずみ男のようなうさんくさい男となって、何かと四三につきまとう美川秀信(勝地涼)を加えてもいいだろう。「いだてん」の魅力は、こうした架空の人物に負うところも小さくない。

理想主義者として描かれた四三と嘉納


第1部の軸となったのは、主人公の金栗四三であり、そして嘉納治五郎であった。いずれも日本スポーツ界のパイオニアであることは間違いない。こうと思い込んだら、見境がなくなるところも同じだ。

嘉納は、莫大な借金を抱えても、日本のオリンピック参加を実現させるため力を注いだ。さらには東京の神宮外苑にスタジアムを建設して、そこでオリンピックを開催し、果ては世界中に柔道を伝えるため自分は150歳まで生きなければならないと、途方もない(熊本弁でいえばそれこそ「とつけむにゃあ」)ことを言い出す。四三もまた、ストックホルムでの惨敗後、結婚して郷里の庄屋の当主になるも、妻や家業などそっちのけで4年後のベルリンオリンピックでの雪辱を期し、全国を走り回る。ベルリンオリンピックが第一次世界大戦で中止になってからも、東海道五十三次駅伝、箱根駅伝を実現させ、さらにアントワープオリンピックでの敗退後には、女子体育の普及を新たな目標に据える。そんな彼を妻のスヤは「マラソン馬鹿」と呼んだ。

「いだてん」における嘉納と四三は、その情熱によって人々を巻き込んで自らの理想を達成するというふうに描かれ、策を弄するような行動はほとんどなかった。ただ、実際のところは、彼らはそれなりに策を立てて理想を実現へと運んでいた。嘉納は政官界にも太いパイプを持ち、たとえば海軍で柔道が早い時期に採用されたのには、嘉納と日本海軍育ての父ともいうべき勝海舟との関係が影響しているという。四三も、竹早の東京第二高等女学校の教員時代、女子テニス大会を実現するため、女子学習院にいた東京高師の先輩を介して皇族の女王殿下たちの臨席をあおぎ、文部省にも了承させ、開催にこぎつけている。それは開催に反対する各女学校の校長たちに、文句を言わせなくするための策だった。

そうした策士ぶりは「いだてん」ではあまり描かれなかったとはいえ、嘉納と四三がたぐいまれな理想主義者であったことは確かなのだろう。面白いのは、嘉納は語学に長け、留学経験から欧米に通じていたのに対し、四三の欧米体験はオリンピック参加時に限られ、マラソンについてはほとんど一人か、高師の仲間と試行錯誤しながら技術を磨いていったことだ。それはマラソンが1896年の近代オリンピックのスタートとともに生まれた、比較的新しいスポーツであり、20世紀前半には欧米でもまだトレーニング術が確立していなかったという事情もあるのだろう。

ドラマを振り返ってみると、四三より上の世代のスポーツ人は、永井道明(杉本哲太)、可児徳(古舘寛治)、大森兵蔵(竹野内豊)、二階堂トクヨと、みんな欧米に留学している。アントワープオリンピックで初めて日本にメダルをもたらしたテニスの熊谷一弥にしても、学生時代から国際試合を重ねながら実力をつけていったという。スポーツライターの武田薫は、これに対し、マラソンは国際大会が4年に1度のオリンピックに限られ、その点で四三のハンデは大きかったと指摘する(『マラソンと日本人』朝日選書)。だが、そのハンデを、四三は独創性によって何とか乗り越えようとしたともいえないだろうか。

四三・嘉納と田畑政治の違いとは?


第2部の主人公となる田畑政治は、嘉納や四三らパイオニアが撒いた種(第24話のサブタイトルは「種まく人」だった)が芽を出し、花と実をつけるまでに育て上げた人物といえる。

田畑は、四三や嘉納とは違い、策略をこそ武器に自らの理想を実現しようとする人物として描かれるようだ。そのため、劇中では今後、彼の交渉相手として高橋是清(萩原健一)や犬養毅(塩見三省)など大物政治家も続々と登場する。田畑が入社した朝日新聞社で出会う緒方竹虎(リリー・フランキー)も河野一郎(桐谷健太)も、のちに政界に進出して歴史に名を残すことになる。

アントワープオリンピック後の報告会あたりから、すでにその傾向は表れていたが、田畑が水泳指導者として多くの名選手を送り出したのは、スポーツが否応なしにナショナリズムと結びついていった時代でもある。前出の犬養や高橋は凶弾に倒れ、しだいに軍部が力を持つようになり、ついには日本は戦争の道へと突き進むことになる。後世から見れば、暗く重くとらえられがちなこの時代を、「いだてん」はどう描こうとしているのか。そのなかでスポーツはどんな役割を果たすのか。大いに気になるところだ。

他方、孝蔵はすでに田畑が「まーちゃん」と呼ばれていた少年時代に浜松で会っていた。もちろん、まーちゃんがのちにオリンピックにかかわることになろうとは思いもしなかったわけだが、孝蔵は今後、田畑の人生とどうリンクしていくのか。そちらも気になるところである。

第2部に期待が高まるとともに、第1部をもう一度見返したくもなる。そんなときにかぎって、NHKオンデマンドではいまだに第4話から第8話までがすっぽり配信停止になっているのが惜しまれる。未見の人のなかには、配信で観ようと思う人もいるだろうに、この状態が続くのでは、この作品にとって大きな損失ではないか。そもそもの原因となる事件も、判決が下って一段落ついたことだし、そろそろ何とかしていただきたい。(近藤正高)

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