「ネタりか」終了のお知らせ

いつも「ネタりか」をご利用いただきありがとうございます。

この度「ネタりか」は、2019年10月16日(水)をもちまして、サービスを終了させていただくことになりました。

これまで長きにわたりご利用いただき、ありがとうございました。

親子ともに発達障害を疑われ…不安とどう向き合う?

2019/6/20 08:52 日刊SPA!

※写真はイメージです(以下、同) ※写真はイメージです(以下、同)

― 光武克の「発達障害BARにようこそ」第9回 ―

東京・渋谷にある発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」。ここは、マスター以下スタッフのほぼ全員が“発達障害の当事者”であるバーです。当店には毎晩、僕らと同じように発達障害の悩みを抱えたお客さんたちが数多くいらっしゃいます。そんな生きづらさを抱えた方たちが少しだけ羽を休めに立ち寄るバーの日常を、僕、マスターの光武克(みつたけ・すぐる)がご紹介します。

==【発達障害とは?】==
■自分の世界に閉じこもりがちな「自閉症スペクトラム症」(ASD)
■注意欠陥と衝動性が強い「多動性注意欠陥障害」(ADHD)
■特定分野(計算だけ異常にできないなど)の理解が困難な「学習障害」(LD)
上記の3種類が一般的に知られている。発達障害者はそれぞれ複雑な“特性”を抱えそれによって日常生活において、さまざまな支障が出る人も多い。
=============
◆高校の先輩から15年ぶりに連絡が

「ねえ、克君、発達障害のお店やっているって本当?」

 ちょうどお店が休みで、ベッドの上でネットサーフィンをしていたときでした。高校の先輩から15年ぶりに突然連絡がきました。こういうときってSNSは便利ですね。もし、SNSがなかったらきっとこの連絡はもらえなかったでしょうから。

光武「あっ、佐藤先輩ですか? お久しぶりです。はい、実は1年半くらい前から発達障害をテーマにコミュニティバーを運営しています」
佐藤「実は、ちょっと相談に乗ってほしいことがあってさ。私の娘のことなんだけどね」
光武「フェイスブックでご結婚なさっていたことは知っていましたが、娘さんがいらっしゃるんですね。僕でよければぜひお話を聞かせせてください」
佐藤「ちょっと言いにくいんだけど……、娘が自閉症スペクトラムの可能性が高いんだ」

 メッセージのやり取りから佐藤先輩のひどく苦しげな様子が伝わってきました。文面から伝わってくる印象は高校のころの先輩とはまるで別人で、一瞬、本当に先輩なのだろうかとメッセージを読み返してしまったほどです。当時の彼女は率先して人の前に立ち、集団を統率する力強さがありました。そんな先輩から弱気なメッセージが来ること自体、当時の僕なら予想すらできなかったと思います……。

佐藤「あのさ、一度お店に遊びに行っても構わないかな? 本当に急に連絡してこんなこと話しちゃってごめんなさい」
光武「お店に来ないでくださいなんて僕が言うわけないですよ。ぜひお待ちしていますね!」

 やりとりから数日後、彼女はBRATsに重い足取りでやってきました。少し顔色も悪く、疲労の色が隠せていません。服装もやや暗めの色のシャツを身に付けており、髪やメイクの具合からも、見た目に気を遣う余裕のなさが見て取れました。

佐藤「克君、お久しぶり。この前は急に連絡しちゃってごめんね」
光武「あっ、先輩! いらっしゃいませ。いえいえ、お待ちしていました!」
佐藤「えっと、ここでいいかな?」
光武「よかったらカウンターにぜひ。ここはゆっくり話もできますしね。まずは、ご注文からうかがいますね」
佐藤「私、あんまりお酒強くないから、飲みやすいカクテルとかあるかな?」
光武「じゃあ、オレンジブロッサムとかどうですか?ジンベースなので香りがさわやかですし、オレンジジュースで割っているので、口当たりもよくて飲みやすいですよ」
佐藤「それじゃあ、オレンジブロッサムにするね」
光武「かしこまりました」

◆子どもも自分も発達障害だった

 僕はカクテルを作りながら、改めて先輩を観察してみました。当時と比べて明らかに顔つきが変わっています。とても明るくて、活発だったころの面影はほとんど見られません。結婚して、子育てをして……という、当たり前とされるライフワークですら、きっと彼女には大きな苦労を与えてしまったのかもしれません。

光武「はい、おまちどうさま」
佐藤「ありがとう。うん、これ飲みやすいね。このお酒私好きかも」
光武「それはよかったです。そういえば、先輩。相談があるっておっしゃってましたよね?」
佐藤「うん、実はね……。ちょっとメールにも書いたんだけど、私、3歳の娘がいてさ、発語がちょっと遅いかなぁってくらいに最初は思っていたんだけど、幼稚園でいろいろトラブル起こしちゃってね。
 一人だけ先生の指示を無視してずっとおもちゃで遊んでいたり、自分のペースを乱されるとパニックになっちゃって、ほかの子を叩いちゃったりしてるんだ。家の中でもそういう傾向があるから、私も参っちゃってさ。それで医者に相談しに行ったら、まだ確定ではないけど、自閉症スペクトラムの疑いが強いって話をされたんだ」
光武「なるほど。そうだったんですね」

佐藤「うん、でね。やっぱり手がかかるんだ、うちの子。発達障害の子育てとか勉強したりさ、いろいろ頑張っているうちに私の方が参ってきちゃって。この前、双極性障害って診断されたんだ。
 加えて、私自身にもADHDの疑いが強いから、これを機会に、カウンセリングを勧められちゃってさ。主人は、私が子育てをサボっているというし。この状態で、家事やって主人の世話もして……」
光武「………。先輩、本当に大変でしたね。双極性障害ということは、鬱の状態と躁の状態が交互に来ているかと思うんですけど、今日は外に出られてよかったです。双極性がひどいと、外出が困難になってしまいますからね。本当にお疲れ様でした」
佐藤「うん、ありがとう……。ちょっと疲れちゃってさ。私自身、自分まで発達障害だと言われたり、双極性障害も出てきちゃうし。お店ってどんな人が来るのかなって思ってさ。支離滅裂だけど、ごめん。全然頭の中がまとまらなくて……」

 このBRATsをオープンさせて約1年半。本当にいろいろなお客様がいらっしゃいました。最近は、ご家族に当事者がいるというケースも増えてきています。カサンドラ症候群に関しては以前に取り上げましたが、このように自分の子供が発達障害を抱えており、そのことがきっかけで自分にもその気質があったと気づかれる佐藤先輩のようなケースも何組かあります。

光武「先輩。無理に話さなくてもいいんですよ。自分のペースでいいですからね」
佐藤「うん、大丈夫だよ。ちょっと一気に感情があふれてきちゃってさ」

 そういって彼女は一気にカクテルを飲み干しました。

佐藤「もう一杯、同じものをもらってもいいかな?」
光武「先輩、無理しないでくださいね」
佐藤「うん、大丈夫だよ」

◆ADHDの女性は生きづらい?

 佐藤先輩のように、ADHDの傾向を持つ女性はとても生きづらさを抱えやすいと僕は思っています。多動性や衝動性の強いADHDにとって、専業主婦という生き方は非常に苦しい生き方を強要するものとなるからです。

 たとえば、ADHDの持つ「飽きっぽさ」は日々のルーティーンワークとの相性が最悪です。また、明るく活動的な性格は、おしとやかさを求める日本の女性像ともマッチしにくいのです。加えて彼女は発達障害のお子様の子育て、理解のない夫の発言がありました。こうしたいくつもの条件が重なりすっかり元気をなくしてしまっていたようです。

光武「今の先輩が置かれている状況はとてもきついと思います。ストレスを感じている環境から離れるという選択肢を考えてもいいんじゃないですか?」
佐藤「というと?」
光武「僕の場合、離婚をきっかけに明るくなれたんですよ。今思うと、大きなストレスだったのかなって思うんですよね。あの環境は。それに、家事をやる余裕がないなら、今は外注サービスだってあります。全部を抱える必要もないんです。できないことはアウトソーシングしちゃうことだって大事ですよ。無理に自分を追い込んでも誰も幸せにならないですから」

 彼女はきょとんとして僕を見つめています。

佐藤「そっか、わたしってそんなに追い詰められていたんだ。冷静に自分を見られていなかったよ。うん、娘の子育てのこと、そして私の病気や障害のこと。親も含めて夫にもきちんと話してみようと思う。それで、もっとひどい言葉を言われたら、そこから逃げることにするよ。こんな簡単なことになんで気付かなかったんだろう?」

 少し先輩の顔が穏やかになったような気がしました。

佐藤「克君。高校の時から変な子だったけど、そのぶん苦労したんだね。あのときは克君にこんな話をするなんて夢にも思わなかったよ」
光武「僕も、先輩の話をカウンター越しに聞くなんて想定外もいいところですよ!」
佐藤「ふふふ」
光武「ははははは」

佐藤「また、夫と話してここに来てみるよ。次は夫も一緒に来てもいいかな?」
光武「もちろん!ぜひ2人でいらっしゃってくださいね!」
佐藤「うん、しっかり話し合って二人で飲みに来るよ。せっかくだし、あと1~2杯くらい飲んでおきたいな。次はウォッカベースで何か作ってくれる?」
光武「かしこまりました。」

 今夜もBRATsは盛況です。次にここを訪れるのは読者の皆さんかもしれませんね。

 本日もご来店まことにありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。

*お客側の登場人物はプライバシーの問題から情報を脚色して掲載しています。

<文/光武克 構成/姫野桂 撮影/渡辺秀之>

【光武克】
(みつたけ・すぐる) 発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP(brats.shopinfo.jp) ツイッターアカウント「@bar_brats」

このネタ読んでどう思う?

投稿ありがとうございます。
よかったらログインしてコメントも書きませんか?閉じる

このネタへのコメント6

コメントを投稿するにはログインが必要です。

ログインしてコメントを書く

カテゴリ別アクセスランキング

トップ