「給食を残す=悪」なのか? 小学校の「完食指導」で登校拒否も

2019/4/18 08:52 日刊SPA!

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「残さず食べよ」と学校給食で教えられたことが、今、子供たちを苦しめている。教師からの圧力、クラスメートからのいじめ……楽しいはずの「給食」の世界が地獄に変わる瞬間とは?

◆脈々と続く“昭和の美徳”は過去の遺物に

 一昨年9月、岐阜市内の小学校教諭が担任するクラスで給食を残さず食べるよう指導し、児童5人が嘔吐していた問題が起きた。また、ツイッター上には「#給食」と並んで「#完食指導」という言葉も躍り、教師の行きすぎた指導が各地で後を絶たない。昭和にあった「残さずきれいに食べましょう」の美徳文化が時代を超え、陰湿さを増して今なお残っている。子供たちが楽しく給食を食べられる空間は、大きく歪められようとしている。

 この春から都内で新3年生になったAくん(8歳)は、元来、明るく闊達な子だった。幼稚園から1年生にかけてこれといった問題はなく、毎日の学校生活を楽しんでいた。Aくんに異変が起きたのは昨年の春だ。

「2年生に進級してすぐ、『担任の先生が給食を残さず食べた子の名前を言って褒めてた。残した子の名前も言われた』とクラスの様子を話してくれたのが始まりでした」とAくんの母親は振り返る。

 新しい担任教諭は、給食を残さず食べる指導に強いこだわりがあった。保護者面談のときに理由を尋ねたが、明確な回答は得られなかった。

 早生まれで小柄なAくんは、食べる量が多くない。個人差を無視し画一的に完食を推奨する給食の時間は、Aくんから次第に笑顔を奪っていく。

 給食の時間を極度に嫌がるようになったAくんは、5月になると登校を渋るようになった。「イヤだ、学校に行きたくない」と泣き叫ぶAくんを父親が肩に担いで登校班の集合場所まで連れていったこともあった。

 Aくんの父親は「給食の時間が苦しかったなんて、自分の経験からは想像できなかった。何が嫌なのかを聞いてあげればよかった」と後悔の念を滲ませた。小学校低学年の語彙力では「給食を食べられない」という生理的なニュアンスは「好き」「きらい」「イヤだ」など、大きな言葉に括られて埋もれてしまう。親であっても心の機微を把握するのは難しく、子供にとっても言語化するのは簡単ではない問題だ。

 Aくんは毎日泣きながら「給食完食主義」と闘っていたのだ。

◆“担任王国”の権力者による人権侵害

 小学校で23年の教員キャリアを持つ教育評論家の親野智可等(おやのちから)氏は「Aくんのケースこそ閉ざされた密室で行われた“担任王国の権力者”による人権侵害、これは暴力です」と指摘する。

 Aくんの母親は連絡ノートを使って、我が子の苦しみを担任に訴えた。「給食を残した子の名前を呼ばれるのが嫌だと言っています」と伝えたとき、驚いたことに担任の教諭は「残した子の名前は言っていません」と抗弁したという。

 教員としての評価が欲しかったのだろうか、近所に住むクラスメートのBさんも「給食の時間内に食べないと、居残りになるから怖かった」と怯えながら給食の時間を過ごしていたことを教えてくれた。

「食べる食べないは本人の意思。楽しくおいしくが優先されない給食の時間は悲しい。残すのは絶対不可。こんなことが数十年来続いているんです」と親野氏は嘆く。

「食べ終わるまで席を立たせない」という指導は昭和の時代そのもので、食が細い児童は給食の時間が終わった昼休みの時間まで残されたこともあるというから驚きだ。

 ここには学校教育の問題点が見え隠れする。教員の多くは「自分自身が家庭で受けた食事教育」「自分が小学生のときに受けた給食指導」を自身の指導に反映しがちだという専門家の調査研究論文が出ている。しかしながら、教員を志す大学生に「食育の授業」を施している大学は全国で4分の1程度。その矛盾が大きなひずみを生み出しているという。

「教師の多くは、始業の時間は厳しく守るくせに、終業の時間は守らないのが“教育界の不思議”です。1分の超過が“熱心な指導”と評価される風潮がある。給食完食指導もその一環と捉えられます。私の教員時代は平均20分の給食の時間を、25分は取るよう工夫をしていました。

 給食の前の4時間目が体育や図工だと着替えや片付けがあって給食の時間に食い込んでしまいがちなので、授業の終了を早め、着替えや片付けを含めて時間内に終わる努力をして、給食の時間は確保するようにしたものでしたが」と、親野氏は、今の教師の、評価第一主義による、余裕のなさがこうした事態を生むひとつの原因と分析する。

◆登校拒否や拒食症、うつ気味で体重も減少

 Aくんは2学期になると、周囲からの助言などもあって多少の変化は見られたものの、担任教諭の「完食主義」は続いた。クラスメートの母親は「ウチの場合は2つ上のお兄ちゃんの2年前の担任だったので、給食を残さず食べさせる先生の指導法は想定済み。でも、事前の情報がないと、特に低学年の子は戸惑いますよね」と何年も前から問題の火種となっていたことを打ち明けてくれた。

 給食の時間を恐れるようになってしまったAくんは、学校を休みがちになり、さらには拒食気味→うつ症状→体重減の悪循環に陥った。体重20kgだったAくんは、短期間で3kgも痩せた。成長過程の小学生には酷すぎる話だ。我慢の限界を超えたAくんの両親に対し当該教師は「そんな指導はしていません」とシラを切り続けたというから驚きだ。

「担任に訴えて解決に至らない場合は、問題意識を持っている学年主任の先生に相談するのがベストです。校長や教頭などの管理職は出世に絡む“事なかれ主義”で、児童を思いやる教員は少ないというのが正直な実感です」(親野氏)

 思い切って、Aくんの両親は養護教諭に相談し、改善の兆しが見えた。母親は胸をなでおろす。

「保健室の先生に相談して担任の視線が届かない別の空間(保健室やフリー教室)で一緒に給食を食べてもらいました。安心して食べられる環境を整えてもらうことで、Aの出席率は大きく回復しました」

 学校では、全学年の給食を調理する「給食室」が、ある一定期間、クラスごとの給食の残飯量をチェックして「すっからかん賞」「もうひといきで賞」という表彰をしているという。「代々伝わる小学校の伝統」で、明確に完食を推奨しているものではないようだが、こうした「賞」の存在が担任にプレッシャーをかけたとも考えられる。

 3学期になると、養護教諭や学年主任の指摘が効いたのか、担任の対応には改善が見られたという。穏やかに給食を食べられるようになったことはAくんやクラスメートにとって吉報だったが、担任の態度が改善したあとも、給食を残した児童に対して「早く食べろよー」「ちぇっ、残してんなよ!」とクラスメートが舌打ちするなど、今度はいじめが始まったのだ。

「完食主義」の価値観を刷り込まれた子供たちは、「給食を残す=悪」という思考に陥り、教師ではなく生徒が「相互監視」をするような状態になっていったという。

 親野氏はこう指摘する。

「“密室の子供の中に大人がひとり”という圧倒的な権力で学級王国が築けてしまう体制こそが最大の問題点です。私は教育予算を増やし、教員数を増やすことを提唱し続けていますが、それは学力差に加え、個人差にも対応できるからです。欧米では担任に加えてアシスタント教師がいる複数担任制が一般的。どんな会社でも組織の弱みには予算を割き強化します。『しっかり教えろ』という抽象的な精神論ではなく、教育予算を増やし教師の数を増やせば、Aくんのような苦しみはなくなるはずです」

 ’17年5月~’18年9月、この問題に取り組む支援団体には、小中学校で教員に給食の完食を指導されたせいで不登校や体調不良になったとの相談が延べ1000人以上から寄せられた。完食指導が訴訟に発展した例もあり、事態はより深刻化の一途を辿っている。

<取材・文/小島克典(スポーツカルチャーラボ) 写真/PIXTA>
※週刊SPA!4月16日発売号「恐怖の食ハラ[給食完食]主義」特集より

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