オリンピック選手を上回る記録も!「ガチで人類No.1を決める」最強のパラリンピック競技とは?

2019/3/23 15:50 日刊SPA!

200キロ成功で力強いガッツポーズ! 200キロ成功で力強いガッツポーズ!

~今から始める2020年東京五輪“観戦穴場競技”探訪 第69回~

 フモフモ編集長と申します。僕は普段、スポーツ観戦記をつづった「スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム」というブログを運営しているスポーツ好きブロガーです。2012年のロンドン五輪の際には『自由すぎるオリンピック観戦術』なる著書を刊行するなど、知っている人は知っている(※知らない人は知らない)存在です。今回は日刊SPA!にお邪魔しまして、新たなスポーツ観戦の旅に出ることにしました。

◆「ガチで人類No.1を決める」最強のパラリンピック競技

 オリンピアンもパラリンピアンもナシに全人類ガチの勝負で頂点に立つ選手が、パラリンピアンの側だったなら燃える……と思ったことはないでしょうか。有名な事例ではドイツの走幅跳選手であるマルクス・レームさんが、片足が義足でありながら8メートル48センチという五輪優勝級の記録を保持しており、東京五輪での金候補ではないかと注目を集めています。本当にそうなったらすごいですよね。

 今回物見遊山へ向かったのも、そんな「全人類ガチ」の王者がいたりするかもしれないという期待感を秘めた競技。その競技とは「パラパワーリフティング」。東京パラリンピックで実施される競技のひとつで、いわゆるベンチプレスのこと。ベンチに寝そべって腕でバーベルをあげるアレです。

 そもそもパワーリフティングとは、バーベルを担いで屈伸する「スクワット」、床に置いてあるバーベルを手で持って引き上げる「デッドリフト」、そしてベンチに寝そべって胸の上にバーベルをあげる「ベンチプレス」の三種目があり、その合計重量を競うものです。ただ、そのなかでもベンチプレスは、単独の大会も開催されるほどの人気種目。パラパワーリフティングは、そんな人気のベンチプレスを単独で切り出しまして、パラリンピックで競っていこうじゃないかという競技なわけです。

 このパラパワーリフティングには「全人類ガチ」での世界一かもしれない選手が存在します。リオパラリンピックの男子107キロ超級(運動機能障害)クラスで310キロの世界記録をマークしたシアマンド・ラーマンさん。日本パラ・パワーリフティング連盟の解説によれば、これは健常者ベンチプレスの世界記録と比べても20キロ以上も上回る大記録なのだとか。

 ラーマンさんに限らず、ベンチプレスの世界大会にパラパワーリフティングの選手が出場したり、優勝したりすることも特別な事例ではないと言います。「ベンチプレスの世界記録をとりまとめている人が誰なのかは知らんけど、とにかくスゴそう……」と思いますよね。何故そんなことが起こるのか、見ておかないといけないでしょう。

 こちらで開かれたのはパラパワーリフティングの全日本選手権。この大会で好成績をあげると夏に行なわれる世界選手権への出場、ひいては東京パラリンピックへの出場にもつながるということで各選手の意欲も高まっている模様。しかも、海外強豪国からの招待選手も招いているということで、まさに「世界」を感じるような舞台となっていました。

 会場となるホールは、音楽コンサートや講演会をやるための講堂です。スポーツ会場らしからぬ舞台に一歩立ち入ると、専属DJでもいるかのように軽快な音楽が流れています。ステージはライトアップされ、場内実況や場内解説まで行なわれているではありませんか。東京五輪・パラリンピックで重量挙げ・パラパワーリフティングの会場となるのは劇場としても広く利用される東京国際フォーラムですが、まさに本番さながらの「劇場感」が漂っています。

 聞けば学校側も学生の経験と勉強を兼ねて運営に協力しているとのこと。音楽も学生が作ったものを流しており、ポスターやパンフレットにも学生の絵が使われています。記録の管理や大会の補助員も学生が担っているのだとか。ほほぉ、こういうやり方もあるんですね。ほかのパラ競技も参考にしてもいいのではないでしょうか。競技が盛り上がり、学生はイベントの運営を通じて自分たちが学んだことを現場で試せるなんて、ウィンウィンじゃないですか。

 取り立てて観衆が多いというほとではありませんが、学生たちの若々しい運営もあって、場内はなかなかの盛り上がりです。もともとこの地は八王子のなかでも奥まった山部分にあり、交通の手段も「JR八王子駅からスクールバスに乗ってください」みたいな行きづらい場所。「間違って、うっかり」来たりするような場所ではありません。「絶対にパラパワーリフティングを見る」という強い気持ちで集った人々だけあって、場内の熱気も高い。

 パラパワーリフティングは下肢に不自由がある選手たちにより、男女各10階級の体重別で争われます。障がいの内容や程度によるクラス分けはなく、区分けは体重のみ。公平性を保つために、下肢の一部を切断している選手は一定の重量を加算した体重で分類されるとのこと。選手はそれぞれ3回の試技を行ない、もっとも重いバーベルをあげた選手が勝ちです。

◆「あげれば逆転!」という盛り上がりやすさ

 選手はベンチに寝そべり、足で踏ん張れないかわりに多くの選手がベルトなどでベンチに下半身を固定します。寝た状態でバーベルを台から持ち上げ、一旦胸の前に下ろして静止したのち、真っ直ぐに挙上。三人の審判員が動作をチェックし、腕が曲がっていないか、バーベルが傾いていないか、胸の前でちゃんと静止できていたかなどを見て成功・失敗を判定するという流れ。

 多少の慣れは必要なものの、競技自体は一目瞭然のわかりやすさ。「あがったか、あがらなかったか」それだけです。一応、「胸の前でしっかり静止しなかった」とか「あげている途中で腕が沈んだ、傾いた」といった理由で失敗になることもありますが、それも意識して見ればわかる程度のことばかり。試合展開も「より重い重量に挑戦する人ほどあとから出てくる」という仕組みのため、「あげれば逆転!」という盛り上がりやすさがあります。

 競技性のわかりやすさだけでなく、選手のスゴさというのも猛烈な説得力とわかりやすさで伝わってきます。下肢が不自由な選手たちではありますが、それを補って余りあるほどに上半身がデカイ。足はその辺の人と比べてもむしろ細いくらいなのに、上半身は巨大な筋肉を備えており、寝そべって肩をひきつけブリッジのような体勢をとると、まるで風船のように大きく見せます。胸と腹で選手の顔が見えなくなるほどです。

 確かに足で踏ん張れないという難はあるのでしょうが、もしも足で踏ん張らなくても身体を支えることができるなら、互角の戦いができても不思議はないなと思います。「足が細いぶん、同じ体重なら上半身により多くの筋肉がついている」という体格の違いによる強みや、日常の暮らしが常に腕と上半身を鍛えることにつながるといった「上半身の強化」に集中できる強みもあります。

 弱点となりそうな足の不自由さも、選手によっては下半身を固定するためのベルトすら使わずに、本当に上半身だけでバーベルを持ち上げてしまうような人も。「足の踏ん張り」による影響が少ないフォームや技術を備えることで「全人類ガチの一番」に挑戦できるのかもしれない、そんな夢や希望を感じさせる戦いぶりです。

「足が不自由」かつ「ベンチプレスをやりたいと思った」という組み合わせは決して多くないはずで、実際この大会も各階級の出場選手は5人前後。そんななかでも男子107キロ超級の中辻克仁選手などは200キロという大台の記録をマークしました。この記録は健常者による同条件の大会でも上位争いができるレベルのもの。パラ競技の選手だからといって、まったくひけをとるものではありません。

「失った」のではなく「特化した」。デッドリフトやスクワットは不得手かもしれないけれど、そのぶんをベンチプレス一本に懸けてきた。そういう特化ができる競技性であり、下肢が不自由なことが逆に強みとさえなっているのが、パラパワーリフティングという競技なのかなと思います。

 逆にバーベルの横に構える補助員のほうが、バーベルや重りを持ち運ぶためにパワーアシストスーツなる補助具をつけていたりするのを見ると、そこに健常者とか障がい者とかの区分けは無意味だなとさえ思います。チカラ持ちかどうかは、健常者だからとか障がい者だからとかで決まるわけではないのですから。

◆車椅子でも乗れて、高さを調整できる表彰台

 パラリンピック競技というと、つい「下に見てしまう」向きや、「全人類の一番ではない」と思ってしまう向きもあるでしょう。もちろん不自由のない人の記録のほうがはるかに上という競技もたくさんあります。ただ、そんななかでこのパラパワーリフティングはそういった気持ちを抱かずに見られる、逆に「もしかしたら今日ここで全人類の一番が出るかもしれない」と思って見られる競技。人気面やチケットの取りやすさだけでなく、「全人類の一番」を見るという体験を重視する人にとっても穴場と言えるのではないでしょうか。

 ちなみに、ほかにも「全人類の一番」が出るかもしれないことに備えた素敵な工夫が、パラパワーリフティングの会場では施されていました。車椅子の選手と義足の選手が入り混じることで大きく異なる「背丈」のせいで、表彰台でのパッと見の順位がわかりづらいというこの競技ならではの問題。それを解消するために、車椅子でも乗れて、高さを調整できるという表彰台を用意していたのです。これで車椅子の選手も義足の選手も、何となくいい感じで表彰台に並び、横並びで写真におさまることができる。何なら、全人類ガチの末に車椅子の選手が勝っても、真ん中で高いところにのぼれる!劇場的な演出やら、素敵な表彰台やら、運営も含めてなかなかイイ穴場ですね!

「見せる」意識が高い!

 これがあれば優勝者が車椅子でも中央がへこむ心配ナシ!

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