呆れた読売の無関心。強制不妊救済法案を各紙はどう伝えたか?

2019/3/18 04:30 まぐまぐニュース!

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3月14日、与党ワーキングチームと超党派議連により「強制不妊救済法」が合意に達しました。著しい人権侵害に対する救済措置の決定であり、読売を除く新聞各紙は、それぞれ大きく紙幅を割いて報じています。ジャーナリストの内田誠さんは、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、各紙の言説を紹介し、決定した提案内容が「被害の甚大性に向き合っていない」と問題点を指摘。さらに、この重大問題にベタ記事1つという読売の「無関心ぶり」も伝えています。

強制不妊救済法成立を新聞各紙はどう報じたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「強制不妊救済法 成立へ」
《読売》…「海洋プラごみ排出源分析」
《毎日》…「強制不妊 一時金320万円に」
《東京》…「大手休めば中小激務」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「強制不妊 真の救済遠く」
《読売》…「脱プラ 日本も本格化」
《毎日》…「『早期救済』心癒えず」
《東京》…「『早期救済』被害者と隔たり」

ハドル

《読売》以外の各紙は「強制不妊救済」で決まりですが、《読売》は「プラスチック」にご執心のようです。法律によって著しい人権侵害が続いていた、その被害者を少しでも救済するためには何をしなければならないのかという大問題なので、「強制不妊」で。少し変則的になるかもしれません。

基本的な報道内容

旧優生保護法下で障害のある人らに不妊手術が強制された問題で、与党ワーキングチームと超党派議連は、被害者救済法案の一本化に合意。前文に反省と「おわび」の言葉を明記し、被害者に支払う一時金は1人320万円とする。しかし各地で続く国家賠償請求訴訟への影響を避けるため、旧法の違憲性に触れず、謝罪の主体も「我々」と曖昧に。 厚労省によれば、被害を受けた人はおよそ2万5千人。存命者数は不明という。

障害者を見下す「一時金」の額

【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、14面社説に35面社会面まで。見出しから。

1面

強制不妊救済法 成立へ一時金320万円 「おわび」明記被害者側 訴訟継続

2面

強制不妊 真の救済遠く「おわび」主語あいまい一時金 被害者要求と溝「違憲性認め謝罪を」

14面

優生手術救済 被害者は納得できない(社説)

35面

苦しみ70年「国は謝って」強制不妊救済法 成立へ

uttiiの眼

《朝日》はこの問題に4紙中、最も大きな紙幅を割いている。 2面の「時時刻刻」は、この問題への対応で国会議員たちを動かす出発点となったのが、昨年1月、宮城県の60代女性による国家賠償請求訴訟で、旧優生保護法を「基本的人権を踏みにじるもので違憲」とし、救済制度を作ってこなかった国に責任があると訴えたことだったとする。超党派議連と与党ワーキングチームが作られ、救済法案が検討されることになったが、議員たちが気に掛けていたのは、各地に広がる訴訟への影響回避で、だからこそ、「おわび」では旧優生保護法の違憲性を認めず、主語も「国」や「国会」ではなく、「我々」と暈かしたものになったという。

《朝日》はハッキリとは書いていないが、もともと、障害者とその子孫を社会から“排除”するために作られた旧優生保護法。被害者たちが求める「救済」に対して、国会が取った行動は、やはり人々の違憲主張を排除するためであって、至極真っ当な要求、違憲性を認め、国あるいは国会の名によって謝罪せよとの求めを拒絶するためだったとしたらどうだろうか。障害者たちは、今度こそ、社会に受け入れられることを望んでいるのに、また再び、排除されることになる。耐え難いことであるに違いない。

思うに、事の本質は叙上の点にあり、一時金320万円というところに集中的に現れている。今回の金額は90年代にスウェーデンでの同様のケースで支払われた一時金を基準にしたというが、議員立法のハンセン病補償法では裁判所が命じた賠償額をベースに1人800万円から1400万円、全国7つの地裁で進行中の訴訟では最大3千万円余の請求額となっている。議員らは「早期救済」を錦の御旗に、金額については参考となる額が他にないとするが、320万円が既成事実となれば、逆に訴訟への悪影響があるかもしれない。それが「狙い」だとすれば、国会のやっていることは悪質極まりない。

35面記事には、記者会見の様子と被害者たちの声が収められている。被害弁護団の新里宏二弁護士は「子どもを生み、育てるという決定権を侵害されているのに、一時金320万円という額は被害回復とならない」、「被害の重大性に向き合った補償額にすべきで、真の被害回復を強く求めたい」としている。

以下、一時金などに対する被害者の声として《朝日》が掲載しているものを並べてみよう。

「臭いものにふたをするためか」「障害者を見下しているとしか思えない」「この金額で納得する人はいない。私のように裁判を起こす人は増えるかもしれない。」「私は60年間苦しめられてきた。国は悪かったことを認め、謝ってほしい」「(たとえ)問題が解決しても、死ぬまで心は傷ついている」「(強制不妊問題が)誰の責任か、ぼやかされている。取り返しの付かないことをしたのは政府や国会だとはっきりさせた上で謝ってもらいたい」

基本的人権に関心がない?

【読売】は2面中央のベタ記事のみ。見出しを以下に。

強制不妊 一時金320万円与野党 救済法案 今国会提出

uttiiの眼

ベタ記事のみで、しかも被害者側がこの法案内容に強い不満を持ち、批判していることが記事のなかに何一つ反映されていない。 「おわび」の主体が「我々」となったことについては、「旧優生保護法が議員立法だったことを踏まえ、おわびの主体を国民全体を意味する「我々」としたという」とするのみ。驚くほどの無関心を示す《読売》。

旧優生保護法の凶暴性

【毎日】は1面トップに3面の解説記事「クローズアップ」、社会面にも関連記事。見出しから。

1面

強制不妊 一時金320万円に与野党が救済法案決定

3面

「早期救済」心癒えず320万円根拠に批判謝罪主体「国」とせず

27面

法廷闘争 終わらない期待外れ 被害者ため息法案早期決定は評価

uttiiの眼

もともと《毎日》のスクープから始まった問題で、記事にも独自の内容、独特の見方が含まれている。

1面記事は、国会が救済法案を急いだ事情につき、「被害者の高齢化などを考慮し議員立法による救済を図った」と比較的好意的に受け止めている。だが勿論、末尾には被害者側弁護団が「320万円では被害回復にならない。被害の重大性に向き合った補償額を定めることを求める」と言っていることにも触れている。

3面も1面の図式を引き継ぎ、まずは議連側が「(被害者が)お年を召しているので、とにかく何か形を作りたいと思った。完全でなきゃ駄目というと、いつまでたってもできない」と言っていることを紹介。「国を相手取った集団訴訟で、判決が1つも出ないうちに国会が救済策をまとめるのは異例のこと」と《毎日》もフォロー。裁判では除斥期間を理由に原告敗訴の可能性が高いことを見越して「判決前の方がスムースに救済が図れる」と考えた議員もいたという。

320万円の根拠については、《毎日》が挙げるのは「スウェーデンの事例」と「ハンセン病損失補償法」。前者は記者会見でも言及されていて、同水準とする形で参照されたわけだが、後者は違う。ハンセン病の場合、隔離政策による被害の一部として強制不妊手術が含まれており、その時の補償金(800万~1400万円)と同水準にするのは難しいという意味で参照されたようだ。同じにすれば、高くなりすぎるということで、こうした記述は《毎日》のみ。

また、今回の救済法案の中身と被害者側が国賠訴訟で求めてきた内容とが食い違う点を7つ挙げ(そのうち、手術記録のない場合の対応については、記録がなくても柔軟に対応することで一致した)、一覧表にしている。まず、国側は謝罪主体を「我々」とし、補償の対象を本人(請求後に死亡した場合は遺族もしくは相続人)に限り、一時金は320万円、被害認定は厚労省内の審査会が行い、周知は国による広報活動とし、有効期間を法施行から5年とする。これに対して被害者側は、謝罪は「国」、補償対象は本人の他、配偶者や遺族、人工妊娠中絶被害者に。補償額は1100万~3850万円、国から独立した第三者機関が被害を認定し、手術記録のある人については通知を行い、時限を設けないものとする。

国賠訴訟では、不妊手術だけでなく、人工妊娠中絶を強いられたり、配偶者への手術で「家族形成権」を侵害されたりしたとの訴えもあるという。

こうしたことまで書いているのは、いや、取材できているのは《毎日》だけのようで、旧優生保護法の凶暴性を暴き出すことに成功していると言えるだろう。同時に、議員側にはそれなりの理由があっての「法案」ということも分かる反面、この内容では、まさしく被害者側弁護士が言うように「被害の重大性」に向き合っていないと言わなければならない。早かろうが何だろうが、やはり、この内容では駄目なのだ。

まもなく判決が出るのに…

【東京】は3面に本記と解説記事「核心」。見出しから。 本記

強制不妊一時金320万円請求額と開き 訴訟継続

「核心」

「早期救済」被害者と隔たり国の責任 旧法の違憲性明記せず与野党、参院選への影響懸念

uttiiの眼

「本記」には、法案が規定する支給対象者は本人のみで、故人や遺族は対象外とすること、本人が手術に「同意」したとされるケースでも、当時の社会的風潮が影響したとして対象とすることが記されている。

しかし、2万5千人が手術を受けたとされるのに、記録上個人が特定できるのは3千人ほど。記録のない人については、「厚労省に夏ごろ設置される認定審査会で医師の所見や本人、家族の証言などを基に判断する」としていること。また都道府県に一時金請求の相談窓口を置き、支払い事務は独法の「福祉医療機構」が行うなど、いわば制度の細目についても書かれている。

「核心」は、被害者側と議連側とのやりとりのなかに、《朝日》《毎日》とはまた少々違った面を見せている。 弁護団はすでに昨年、法案前文の「反省とおわび」の主体を「国」とすること、旧法の違憲性を明記するなどの要望を伝えていたといい、それが全く反映されなかったことに不信感を持っているという。さらに、5月には仙台地裁が初の判断を下す可能性があり、「旧法の違憲性」を認める判決が出る可能性があって、「判決が出た直後に救済制度が確立される順序が望ましい」としていること。

議員側には、少々「黒い事情」もあり、与党ワーキングチームの幹部は「参院選までに法成立しないと、立場がない」という。旧法は議員立法による全会一致で成立したものであり、この問題は与野党ともに放置できない。参院選が近づくと共同歩調がとれなくなるので、「立法府としての意思を早く示す必要があった」と。

最後に政府関係者は「一時金額を不満とする追加提訴が相次ぐ恐れもあり、国会も政府も恥をかきかねない」と言っているらしい。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。 この重大問題にベタ記事1つという《読売》の呆(ほう)けぶりが際立ちました。《朝日》と《東京》は、議員側の「闇」を描こうとしていますが、《毎日》は今回、与党ワーキングチームと議連で合意した法案の内容に即して、根底的な批判を加えています。参院選云々は大きな問題ではなく、議員の提案内容自体が、被害の甚大性に向き合っていないことが最大の問題だということです。

image by: Cris Foto / Shutterstock.com

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