松本人志、マツコ、指原…同じ有名人コメントが溢れるネット記事は、いつまで続くのか

2019/3/2 15:52 日刊SPA!

※指原莉乃Instagramより ※指原莉乃Instagramより

 先月9日、松本人志がTwitterでこう呟いたのを覚えている人も多いだろう。

「ネットニュース。松本。松本。松本。松本…… なんかくれ~」

 本人がこう愚痴るのも無理はない。それほど現在のネットニュース界隈は、特定のタレントのテレビコメントやツイートを引用しただけの記事で埋め尽くされている。

『ワイドナショー』の松本人志、古市憲寿、指原莉乃をはじめ、マツコ・デラックス、カンニング竹山、有吉弘行、坂上忍、岡村隆史……そして最近では、ウーマンラッシュアワーの村本大輔。

 まるで世の中で記事に値するのは彼らだけかと錯覚するほどの氾濫ぶりである。そんな狂気の沙汰を皮肉った冒頭の呟きもまた、ネットニュースとして配信される無間地獄。

 こうした現状について、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏はこう分析する。

◆テレビウォッチの氾濫は「PV至上主義」の当然の帰結

「テレビなど他のメディアコンテンツの概要を記事にする“テレビウォッチ”を始めたのは‘06年のJ-CASTニュース。これが元祖といえますが、以後、取材力を持たない新興ニュースサイトは続々と『この手があったか!』とばかりにテレビ、ラジオ、そして有名人のブログやSNSをニュースソースにするようになります。

 ’08年には、倖田來未がラジオで『35歳で羊水が腐る』と発言したことを取り上げ、活動自粛にまで追い込んだことで勢いを増し、近年はデイリースポーツやスポーツ報知などのスポーツ新聞が参入して収拾がつかなくなっています」(中川氏、以下同)

 ここまで氾濫する理由はただひとつ、「効率よくPV(ページビュー=クリックされたページ数)が稼げるから」に他ならない。

「ネタ元はテレビ局が予算と人員をかけて作り、収録ならば面白い部分のみを編集したコンテンツですから、面白いに決まっている。一方、テレビウォッチはそれを引用するだけなので極めて低コストな上に量産できる。スポーツ新聞系や新興ポータルの中には、テレビウォッチが命綱になっているところも少なくないはずです」

 ちなみに日刊SPA!だってPVは稼ぎたいが、テレビやSNS引用だけの記事には手を出せずにいる。虚しくて疲弊するに決まってるからだ。

◆松本人志やマツコは一言一句をチェックされている

 また、特定のタレントのコメントばかりが取り上げられるのにも、ワケがあるという。

「クリックされるかされないかのネットニュースは見出しが命。そのひとつのテンプレートが『○○が「~~」と発言』という形で、冒頭にくる○○(発言者)の部分にもっとも強いワードがこなくてはなりません。おそらく松本人志やマツコ・デラックスなどPVの稼げるタレントは‟重要指定人物”として出演番組はすべてリスト化され、一言一句をチェックされているはずです」

 ネットニュース配信の現場では、過去記事のPV一覧を突き合わせながら会議が行われている。その俎上でもっとも重要なのは、「誰がPVを稼げるか」であり、発言内容や文脈は二の次だと中川氏。

「僕らは見出しを見ただけでそうしたクソ記事をすぐ弾くことができますが、依然としてPVが稼げるということは、その記事を読んで得した気になっている人が多いのでしょう。ですから、今後もタレントの発言でニュースサイトが埋め尽くされるヤバい状況は悪化していくと思います。

 これは仕方のないことなので、『とりあえず活字は読める』という日本の識字率の高さに改めて驚くというポジティブな受け取り方をするより他ありませんね」

◆テレビが声を上げれば、一気に沈静化する可能性も

 ただ、この状況に転機が訪れるとすれば、それは「テレビ局など制作側が声を上げること」だと中川氏は指摘する。

「テレビウォッチ側はあくまで『引用』というスタンスですが、ほとんど番組を書き起こしただけの記事で商売するとなると話は違ってきます。予算を掛けて、タレントをブッキングして、徹夜で編集して……そうした手間と知恵を絞ってテレビ局が作ったコンテンツにフリーライドしているだけですから。

 もしコンテンツ制作側が使用料を求めて訴えたら、潮目ががらりと変わる可能性があります。例えば、『月間1000万PV以上のメディアがテレビウォッチで記事を作った場合は営利活動とみなして使用料を請求する』といった形になれば、コストに見合わないとしてネットニュースがテレビウォッチから手を引くことになるでしょう」

◆ロンブー田村淳の記事が激減したワケ

 ’17年にはロンドンブーツ1号2号の田村淳が「無断転載禁止」と表示していたのにもかかわらずツイートを記事化されたとして疑問を投げかけた。

「それだけで田村さんのツイートが記事化されることが激減しましたからね。『淳は名指しでオレらを追い込んでくるかも……。ファンからも抗議が来るかも……』なんて思ったのかもしれません。法律上は、引用や報道の要件を満たしていれば問題ないのですが、手間を掛けずにテレビ番組やツイートをメインに記事化するのはグレー。リスクがあると認知させるだけでも、十分な抑止力になります」

 そして、こうした流れは、ネットニュースの制作現場からも歓迎されるのではと中川氏。

「会社は痛手でしょうが、そもそもテレビウォッチなんて『PVが稼げる』という以外に何の意味もない、ジャーナリズムの欠片もない記事ですから、現場は疲弊し切っているんです。何のモチベーションもないので、『もう書かなくていい』となったらすぐにでも投げ捨てるでしょうね。

 嘘かまことかはわかりませんが、テレビウォッチが生まれたきっかけは、ネットニュース編集者の家族の内職のためだったとか。その程度の記事が、今やニュースサイトのメインコンテンツになっていること自体が異常なんです」

 連綿とテレビウォッチの制作に追われて現場が疲弊し、多様なチャレンジが失われているリスクも当然あるだろう。果たしてこのテレビウォッチブームがどういう帰結を迎えるのか、注目していきたい。〈取材・文/日刊SPA!取材班〉

●ネットニュース編集者・中川淳一郎氏

博報堂を経て、ライター、その後ネットニュースサイトの編集者に。現在はネットでの情報発信のプランニング業務などを行う。近著に適菜収との共著『博愛のすすめ』(講談社)

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