なぜ私たちはイライラしているのか? スマホが生んだ症候群

2019/1/11 15:50 日刊SPA!

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― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

◆日本人のイライラと「自分はこんなレベルじゃない」症候群

 新年、明けましておめでとうございます。今年こそ、この連載をまとめた新しい本を出したいと思います。

 さて、『ニュース23』という番組から「どうして日本人はこんなにイライラしているんでしょう?」というタイトルのゲスト出演を頼まれました。

 打合せの席で、ディレクターさんから素朴に「どうしてなんでしょう?」と聞かれました。

「ふむ」と考えました。

 もちろん、先の見えない経済とか割引計算がメチャクチャな消費税という金銭的な不安によってイライラしているという理由はあるでしょう。

 同時に、やっぱり、スマホの影響が大きいんじゃないかと思ってしまいました。

 電車に乗ると、もう、殆どの人がスマホを見ています。マンガ雑誌や新聞を見ている人は減りました。

 スマホは、「見たいものだけを見れる」という奇跡のような状態を実現しました。

 右翼さんは右翼的な言説だけを、左翼さんは左翼的な言説だけを見ていれば、時間が過ぎます。オタクはオタク的な言説や動画を見ていれば、一生を終えることが可能になりました。これ、考えてみればすごいことです。

 つまりは、「自分が気持ちいいこと」にだけ、「どんな状況でも」接することが可能になったのです。

 ちょっとした待ち時間も、電車に乗っていても、歩いていても、退屈な飲み会でも、授業でも、会議でも「自分が見たいもの・読みたいもの」だけ、接することをスマホは可能にしたのです。

 新聞やテレビは、自分の見たいものと同時に、見たくないものも提示します。興味のないもの、無視したいものも、有無を言わさず突きつけます。

 でも、スマホはそんな無粋なことをしません。

 そんな快適な環境から、異物が満載の日常に放り出されて、イライラしない方がおかしいと思うのです。

◆自分の評価が「見える」化した時代

 電車の中でスマホを見る。興味あることが続く。で、駅に電車が止まる。降りようとしたら、出口で立ち止まっている奴がいる。

 これ、瞬間的にイラッとしますよね。なおかつ、この立ち止まっている人が、スマホを見ていたりするとイライラは倍加します。「あなたは自分の快適さを追及していて、こっちはホームに降りられない」という、あなただけいい目を見ているという感覚になるのです。

 インターネットによって、自分の評価が「見える化」しました。「いいね」がいくつ押されるか、フォロワーが何人いるか。スマホはそれを日常の生活に持ち込みました。

 みんな、自意識を肥大せざるを得ない状況に放り込まれました。昔だったら、評価される場はテレビや新聞のマスメディアしかありませんでした。基準は全国レベルでした。

 けれど、ネットの発達で、なにげないことで評価されるようになりました。自意識がどんどんと育てられます。

 一番簡単に書ける文章は批判です。なにかにケチをつけて、文句を言うことは、なにかを0から創造するよりはるかに簡単です。

 でも、批判すると批判され返される危険があります。

 批判だけして、絶対に文句言われないのは、「正義の発言」です。

 20歳未満がお酒を飲んでいたとか、信号無視していたとか、タレントの愚かな行動に関しての発言は、絶対に否定されません。

 すべて、「自分はこんなレベルじゃない症候群」の結果です。自分はもっとすごい奴なんだ、もっと人から認められるし、発言の影響力があるんだ、ほら、ツイート数がこんなにある。

 本人の問題ではありません。スマホというシステムが、この症候群を生んだのです。

 そして、結果的に、みんな相互監視の状態になりました。道徳的に厳しいからではなく、道徳的に厳しい発言は誰からも責められないから。

 息苦しい国に、ますます、なるでしょうなあ。

 さて、そんな2019年をどうやって生きるか。

 少しでも楽になる方法を、ああでもないこうでもないといろいろ探っていこうと思います。今年もよろしくお願いします。

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