追悼・加藤剛さん 70年代に憂いた正統派の二枚目俳優

2018/7/13 12:06 日刊ゲンダイDIGITAL

昭和37年撮影時の加藤剛さん(C)共同通信社 昭和37年撮影時の加藤剛さん(C)共同通信社

コラム【大高宏雄の「日本映画界」最前線】

 俳優の加藤剛さんが6月18日に亡くなった。享年80。正統的な二枚目俳優として、映画界でも確固とした地位を確立された方だった。とはいえ、俳優、とくに映画俳優としての加藤さんは不遇だった気がしないでもない。筆者は、ずっとそんな印象を抱いていた。

 加藤さんが主役を張る作品は1970年代が多かった。松本清張原作の「影の車」(70年)、「砂の器」(74年)や「黒の斜面」(71年)、「忍ぶ川」(72年)、主役ではない「戦争と人間」(70年)なども含めると、代表作の多くが70年代に並ぶ。ところが、その時代がくせものだった。

 70年代の日本映画界を席巻していた代表的な男優は、高倉健、菅原文太、緒形拳、原田芳雄、萩原健一、松田優作といったあたりか。男の匂いムンムン、ときに暴力の香りも充満させる男優ばかりだ。彼らには、この時代にみなぎる反体制的な気分が色濃かった。

 70年代は映画も観客も荒ぶる時代だ。そんな時代に、やわな二枚目はもてはやされなかった。正統的な二枚目の加藤さんは居心地が悪い思いをしていたのではないか。映画評論家たちの評価も、それほど高くなかったと思う。筆者も、その尻馬に乗った。

 加藤さんの真の凄さを実感したのは、それほど過去の話ではない。「舟を編む」(13年)で、実直な二枚目が老いた姿となり、黙々と辞典の編纂(へんさん)に取り組む演技に襟を正した。遺作の「今夜、ロマンス劇場で」(18年)では、やせ細った体から振り絞ったかのような穏やかな声の向こうに、加藤剛の俳優人生がにじみ出て、目頭を熱くした。

 加藤さん。時代の流れをものともせず、最後まで俳優人生をまっとうしてくださり、本当にありがとう。あなたの凄さがやっと分かりました。

(大高宏雄/映画ジャーナリスト)

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