映画監督って儲からない?映画の制作・宣伝費用について現役映画監督に聞いてみた

2018/3/31 12:01 ネタりかコンテンツ部

こんにちは、ライターの砂流(スナガレって読みます)です。

映画の興行収入ってよく話題になりますよね。大ヒット映画はよく“○○億円突破”みたいな感じでニュースになりますが、いわゆる普通の映画ってどれくらい利益が出たり、監督はどれくらいのお金をもらったりしているのでしょうか。気になったので、知り合いの映画監督に話を聞いてみることにしました。

 

話を聞いた映画監督

 

今回お話を聞いたのは、映画監督の谷内田彰久さん。以前「「映画の予告編ってどうやって作っているの?」 映画 #ママダメ の監督に聞いてみた」という記事にも登場してもらった映画監督です。

谷内田彰久(やちだ あきひさ)
大阪芸術大学映像学科卒業後、深夜ドラマ制作に携わる。24歳の時にドラマ『苺リリック』を担当し、監督として独立。以降『天使のココロ』『僕の彼女にプレゼンします!』『ヒーローズ』『あいまいな殺人』『助っ人チェリー』など、TVを中心にドラマやCMなどを多数制作。2016年10月MBS/TBS放送『拝啓、民泊様。』2017年11月公開映画『爪先の宇宙』2018年3月TOKYOMX放送『#ハッシュタグ』の監督を務める。

Twitter:@nafcopank
Facebook:https://www.facebook.com/nafco.yachi

 

興行収入だけだとだいたい赤字!?

 

―― 谷内田監督作品の『ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。』(以下『ママダメ』)は、興行収入的にはどれくらいだったのでしょうか?

日台合作作品として日本と台湾の二カ国で公開したんですけど、日本がだいたい1千数百万円くらい。台湾は日本の4〜5倍の数千万ぐらいでした。

 

―― 台湾のほうが興行収入はだいぶ多いですね

原作が台湾ではめちゃくちゃ有名な作品だったんです。舞台挨拶で台湾に行った時は、すさまじい数のメディアが来ましたね。インタビューも、1媒体5分なのに半日以上ひっきりなしに予定が入っている、という感じでした。ニュースでも取り上げられ、ドキュメンタリーも作られ、新聞でも全面に載って……と、とにかくすごかった。

合計で80媒体くらいに取り上げられたおかげで、台湾人に聞けば誰もが知っている、というような作品になったんじゃないかと思います。

 

―― でも、それだけ話題になっても興行収入数億円とかにはならないんですね

というか、まだ全然赤字なんですよ。

 

―― え!?

制作費と宣伝費で1億円近くかかったので、今やっと半分回収できたくらいです。

 

―― めちゃくちゃ赤字じゃないですか……。大丈夫なんですか……?

興行収入だけで考えるとそうですよね(笑)。でも映画って、興行収入以外にDVD販売とか、配信とか、レンタルとか、いろいろ収入があるんです。海外上映や公民館上映などの二次使用についても、別途使用料が発生します。それらを全てあわせ、数年といった期間で制作費を回収していくのが普通なんですよ。

 

―― なるほど。ただ、現状はまだ赤字なわけですよね。そういう状況でも監督ってお金をもらえるんでしょうか?

監督料は別に支払われますからね。あと、興行収入と二次使用からの印税も入ってきます。

 

―― 一般的にどのくらいもらえるものなんですか?

監督料は、宣伝費を除いた総制作費の約10%。印税は、二次使用で数%が入ってきます。今の映画業界では、これぐらいの料率設定が普通だと思います。

 

―― そうすると、今回は制作費が約1億円だったので、監督料としては約1千万円ぐらいですか。

いや、宣伝費に数千万円くらい使っているので、実際はもっと少ないですね。

 

―― 映画監督ってハリウッドのイメージのせいか、もっとウハウハな職業だと思っていました……。

全然儲からないですよ。映画がめちゃめちゃヒットすれば別ですが、仕事を映画監督しかやっていないという人は、だいたいみんな貧乏です。「今年2本しか撮ってないんで、年収300万円でした」とか普通に聞きますしね。

僕の場合はプロデューサーやほかの仕事もやっているのでご飯は食べていけてますけど、もし映画監督だけやっていたらバイトしないとダメだと思います。(笑)

 

―― 思った以上に厳しい仕事なんですね……。

けど、楽しいんですよ。自由だし、ストレスもないです。普段バカらしいことをしゃべっていても、それを作品として形にすることもできるし、良い仕事だなとは思います。

 

映画の舞台挨拶は想像以上にお金がかかる

 

―― 宣伝費って、何にお金がかかるのですか?

わかりやすいところでは、映画館とかでよくやっている「舞台挨拶」ですかね。あれ、皆さんが想像する以上にお金がかかっているんですよ。

 

―― 出演者が来場するだけだから、そんなにはかからなそうな気がしますが……

いや、考えてみてください。まずはキャストのギャラ、その足代(交通費)、地方の場合は宿泊費も必要になります。それに加え、衣装代やメイク代も当然発生してきます。

『ママダメ』の場合、舞台挨拶に台湾から主演のジエン・マンシューさんを日本に呼んだのですが、マネージャーさんも2人付いてきました。だから3人分のホテル代と飛行機代がかかるわけで、彼女をただ呼ぶだけで100万円近くが必要になっちゃうんですよ。

もちろんほかのキャストにも登壇してもらう以上、その人数分だけ似たようなお金がかかるわけです。これを映画館ごとに何回もやらなきゃいけない。

 

―― うわー!

あとはメイキングを撮るためのカメラやスチール、打ち上げ費用なんかも必要になります。人数が多い場合はバスを貸し切って移動したりするんですが、もちろん移動代だってかかります。そうするとすぐに、「あれ、お金ないな」という感じになるんですよ。

 

―― たしかに。すごい金額を使うことになりそうですね

だから正直なところ舞台挨拶はやりたくないんです。でも、やらないとお客さんが来ない、というジレンマもあって。

だってお客さんからすれば、どうせ行くなら「盛り上がっている映画」を見に行きたいですからね。舞台挨拶をすれば、いろいろな媒体に取材に来てもらえたりするので、盛り上がっている感じが出る。だからもう、割り切って実施するしかないんです。

 

―― 映画館に置いてあるポスターやチラシ、あとは予告編を作る費用なども宣伝費に含まれるのですか?

そうですね。『ママダメ』の場合、チラシは10万部近く、ポスターは数千枚刷ったので、そこもけっこうお金がかかりました。あとは、新聞や媒体などに出す広告費、Webでおこなうプロモーションの費用などですかね。

 

月に1回映画館に行けば、「映画マニア」!?

 

―― いろいろ費用をかけて宣伝をしてきた中で、効果があったのはどの施策でしたか?

僕の予想以上に効果があったのが「チラシ・ポスター・予告編」です。もともとその3つは業界で「3種の神器」って呼ばれているんですけど、僕たちはそこらへんバカにしていたんですよ。「もうそんな時代じゃないだろう」って。だから当初は全然刷ってなかった。でも配布開始後、多くの映画館から「追加でチラシをください」って言われてしまい……。実際、そう言ってくれた映画館や早くから予告編を流していた映画館ほど、多くのお客さんが来てくれました。

これ、よく考えたら当たり前のことなんですが、普段映画館に来ているお客さんに作品のことを知ってもらうためには、この3つが一番良いんですよね。

逆にWebはどんなにプロモーションを頑張っても、映画館まで足を運んでくれるのはリーチ数の1〜3%程度です。

 

―― 『ママダメ』の場合、モデルとなったご夫婦のFacebookページのファン数が37万人を超えており、映画の宣伝にも積極的でした。Webとはプロモーション的にかなり相性の良い作品だったと思うのですが、影響度としてはそれぐらいなのですね。

そうですね。Facebookに「いいね!」やTwitterをフォローしてくれていても、映画を見に行くという行為をアカウント側からの宣伝で実行させる、というのはやはり難しいです。そのアカウントのことをよっぽど好き、とかじゃないとね。

ただ、いろいろな人たちの協力によってWeb上にたくさんの記事が出て、それを読むことで興味を持って映画館に来てくれた、という人ももちろんいます。来館者調査をしたところ、特に『ママダメ』は「初めてここの映画館に来ました」とか「普段映画はあまり見ません」という人が多くて。そういう人たちが来てくれたのは、本当にWebでのプロモーションのおかげだと思います。

 

―― たしかに今って「映画館に行く」という習慣自体が、あまりないかもしれません。

そうなんですよ。「『スター・ウォーズ』を公開初日にみんなで見に行くぞ」みたいに、映画館に行くこと自体をイベント化しないと、普通は行かないんです。

僕は週に1〜3回くらい映画館に行くんですけど、実は今、月に1回以上行っている人というのは、日本には約400万人しかいないと言われています。その400万人が「映画マニア」に括られているんです。

 

―― 月に1回映画館に行くと、もう「映画マニア」と名乗れるんですね……

丸の内OL80人ぐらいに「年に何回映画を見に行きますか?」という街頭調査をしたのですが、「1回か2回」という答えが大半でしたね。「何を見たんですか?」と聞いたら、『バイオハザード』。行った理由も「映画なら、彼氏と2時間しゃべんなくていいから」みたいな。

 

―― 映画って、今ほんとに見られていないんですね。

『ママダメ』の場合、そういう「映画館に行かない人たち」を誘導できれば、という狙いで作ったところもあったので、その点では成功したのかなと思っています。普段映画を見に行かないような人が、「シネマカリテ」とかの単館の映画館に足を運んでくれたというのは、単純に嬉しかったですね。

 

―― 一方で、すごく熱心な作品のファンもいらっしゃったんですよね。

単館の映画館で映画を見るのは「応援したい」って雰囲気になりやすいのか、10回以上も見てくれた方、わざわざ地方の映画館まで足を運んでくれた方、さらには台湾まで来てくれた方もいました。道端で「監督ですよね。僕、10回見ました!」と声をかけられたりもしました。

『ママダメ』は、興行収入的なところよりも、見てくれた方と密度濃くつながれた良い作品になったと思いますね。

 

監督料よりも、今はとにかく作ること

 

―― それにしても、映画監督ってもっと儲かっても良さそうなお仕事ですけどね。

さっき監督料の話をしましたが、僕は基本的に「監督料」というのはもらってないんですよ。2017年11月に公開された『爪先の宇宙』という作品や、『#ハッシュタグ』というドラマでも監督をやっていますが、監督料はゼロ円です。

 

―― え!? ただでさえ儲からないのになぜですか?

「お金よりも、まず作らないと」と思っているんです。僕が今「『ママダメ』の監督をやっていたんですけど……」と挨拶すると、知ってると言ってくれる人が、ネット業界を中心に意外に増えています。台湾で知ってくれている人も多い。さらに『SNSポリス』のアニメ化をやったことで、ネットニュースでも僕の名前がよく出るようになった。

僕はもともとネットとかそういうのが好きなので、そういう方面に強い作品を実績としていろいろ持つことで、次の作品を口説きにいく宣伝材料にしたいと考えるようになったんです。その結果、「ネットに絡んだ作品を作る人なんだな」という印象を世間に与えられるようになり、さらに仕事がしやすくなる。

 

―― なるほど、戦略的な展開としてのゼロ円。

どんどん作りながら、宣伝もしている間に、違うビジネスモデルのものもやる。二次使用とかでの印税はもらっているので、僕自身の儲けとかはそこから出ればいいかなと思っています。作るほうが楽しいですからね。これから、ライブ配信とか新しいものにもチャレンジしていきたいですね。

 

まとめ

興行収入の秘密から、映画監督のもらうお金や宣伝費の内訳についてなど、映画業界のあれこれをじっくり聞くことができました。

それにしても、月1回以上映画館に行く人が日本に約400万人しかいないとは、かなり意外でした……。映画好きの僕としては、ぜひ皆さんにももっと映画館に足を運んでもらい、素敵な作品に出会ってもらえればと思います。

なお現在、谷内田監督は、TOKYO MXで放送中の『#ハッシュタグ』というドラマの監督をされています。『ママダメ』と同じく、舞台が台湾のドラマ。気になる方はぜひご覧ください。谷内田監督、ありがとうございました!

 

ドラマ『#ハッシュタグ』:http://hash-tag.tv/

 

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