「wishのないコンプライアンスこそ、日本の閉塞感の象徴」弁護士・水野祐による法務の企画術 連載:大人の学び 第8回

2017/10/17 11:31 ネタりかコンテンツ部

私たちは、日々何かを企画しながら生きています。

新しいイベント、月末の旅行のプラン、今日の晩御飯のメニューetc……。仕事はもちろん、日常生活の中でも「企画」をする機会は訪れます。だからこそ、企画を特別なものとして距離をおくのではなく、自分の人生をちょっと良い方向に変える手段として捉えてみる。そうすることで、少しずつ変化は起きていくのかもしれません。

 

「自分はこれから何をして生きていきたいか」、「自分はこれからどんな世の中をつくりたいか」。これらをテーマに、コピーライターの阿部広太郎さんが主宰する講座が「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)です。

 

各業界の現場の第一線で活躍される方たちをお招きして「企画」の捉え方・考え方について伺っていく企画メシ。こちらの連載では、「大人の学び」をテーマに、自分の人生を企画していくためのヒントをお届けしていきます。

 

今回のテーマ:「法律」

 

話し手(写真左):水野祐

弁護士(シティライツ法律事務所)。Arts and Law 代表理事。
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(特定非営利活動法人コモンスフィア)理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。FabLab Japan Networkなどにも所属。IT・クリエイティブ・まちづくり分野の法務に従事しつつ、官公庁で委員会の委員やアドバイザーなども務める。

 

聞き手(写真右):阿部広太郎

1986年生まれ。2008年、電通入社。人事局を経て、コピーライターに。「世の中に一体感をつくる」という信念のもと、言葉を企画し、コピーを書き、人に会い、つなぎ、仕事をつくる。東京コピーライターズクラブ会員。宣伝会議コピーライター養成講座「先輩コース」講師。

世の中に企画する人を増やすべく、2015年より、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を立ち上げる。初の著書『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』(弘文堂)を出版。

 

※本連載は、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)における講義内容を、対談形式に再編集したうえで一部内容をネタりかにて補足したものとなります。

企画メシ:http://kikakumeshi.jp/

大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDO:http://bukatsu-do.jp/

 

クリエイティブ支援の分野で「インターネット以降」はガラ空きだった

 

阿部:水野さんは、主に著作権などの知的財産権を扱う弁護士で、クリエイターやアーティストの表現活動を法律家の立場からサポートするという存在として知られています。そんな水野さんが、現在のような法律関係の仕事に興味を持ち始めたきっかけは何だったのでしょうか?

 

水野:大学のとき法学部だったんですけど、ローレンス・レッシグという人が書いた『CODE』って本を読んで、それでけっこう開眼したというか。法律や世の中の仕組みってすごくパンクだな、カッコイイなと思ったのがきっかけでしたね。

 

阿部:みんながイメージしているような「法律=堅い」ということではなく、法律がどういう風に世の中を変えいくか、というようなことが書かれた本ですよね。

 

水野:そうです。僕は大学の時から周囲にものを作る人間が多かったので、自分自身では作らないけど、そういう人たちを後押しする裏方というか、そういう人たちをサポートする仕組みを作るというか、そういう仕事に前から興味があったんですよ。

 

阿部:自身が才能を発揮する側というか、アーティストやクリエイター側になろうという気持ちはなかったんですか?

 

 

水野:それが全然。主役になれなかったから裏方に、とかではなく、当時から純粋に「仕組みを作る側のほうが面白いんじゃない?」って思ってたんですよ。編集者やプロデューサー的な立場というか。

 

阿部:なるほど。器そのものを作っていくような仕事のほうが面白いし、やりがいがありそうと感じられたわけですね。

ところで、法律事務所に入る人や企業の法務部門で働く人など、弁護士にもいろんな働き方があります。水野さんは「弁護士になったらこんな働き方をしよう」みたいなプランは当初からあったのでしょうか。

 

水野:僕の場合、広い意味でクリエイターをサポートしたいと思って弁護士になったので、「これでやりたいことがようやくできるぞ」みたいな気持ちで仕事をスタートさせました。そこから現在に至るまでは、そのやりたいことがありすぎて忙しい、っていう状態がずっと続いています(笑)。だからプランとかは全然なかったですね。

ロースクールの学生だった頃から「Arts and Law」っていうNPOで活動してました。アーティストやクリエイターの法律相談に無料でのるという団体で、基本的にはボランティア。でも、そこでの無料相談で接点ができたおかげで、結果としてその後の仕事につながったというパターンがけっこう多いですね。

 

Arts and Law http://www.arts-law.org/home

 

阿部:弁護士でそういう無料の活動をされている方は珍しいですよね。だからその後の水野さんの活躍の場も広がりやすかったのでしょうか。

 

水野:もちろん国が設立した「法テラス」とかはありますけど、クリエイティブ分野でこういうのは相当珍しいと思います。

ただ、これまでそういうクリエイターの支援活動をされている先人がいなかったわけではないんです。特に著作権や知的財産権といったいわゆるエンターテインメントロイヤーというジャンルでは著名な方もそれなりに多くいらっしゃいました。

そういう状況の中で、自分はどう活動していくかということを考えた時に、やっぱり僕にとっては「インターネット以前」「インターネット以降」の両方の時代がある程度わかることが、すごく有利になるなって。そういう業界内の「ポジショニング」については、僕はすごく考えてやってきたと思います。

 

阿部:空いている領域というか、まだあまり人がいない分野で自らが進んで行動することによって、活動の幅を広げてらっしゃるわけですね。

 

水野:そうですね。特に弁護士とクリエイティブ世界の関係となると、テレビ局や大手出版社・代理店などは偉大な先輩たちが全部クライアントで抱えてしまっていて。そういう意味では狭い道だったんですね。

でも僕たちの時代になって、個々のクリエイターや小さなプロダクションが、インターネットを通じて世界的なインパクトを持てるようになりました。もちろんひとつひとつのパイは小さいかもしれませんが、それを集合的にできるようになったというか。そこらへんの分野はガラ空きだったので、そこを狙ってやったというのが、僕の弁護士としてのビジネス戦略・生存戦略ではありました。

 

阿部:なるほど。そうした状況の中で、Chim↑Pomさんの事件など、水野さんのお名前が世間に出ていく機会も増えていったわけですね。

 

好きなことを仕事にしたほうが絶対にいい。僕は自分が好きなことしかできない。

 

阿部:スキルや考え方の部分で、水野さんが重視しているものは何かありますか?

 

水野:弁護士になってから気付いたのですが、「編集」っていうスキルはすごく重要だなと思って。特にクリエイターのステートメントなんかを出すときは、文章を書く力や相手の話を深く掘り下げる力なんかが必要になります。だから後藤繁雄さんや岡本仁さんの主宰する編集スクールにも通いましたね。

 

阿部:その行動力はすごいですね。同時期にスクールに通っていた人からは「え、現役の弁護士なの?」とか驚かれたんじゃないですか。

 

水野:はい(笑)。でも、そこでできた友人関係とか、やっぱりすごく今の仕事につながっていますよ。僕自身が他の弁護士がいない場所を広げることが好きというか、他にやってる人がいると「もう自分必要ないじゃん」って引いてしまうようなタイプなので。

 

阿部:でもそういう考え方のほうが、自分らしい仕事の獲得にもつながりそうですね。

 

水野:そうかもしれません。僕自身、仕事やお金のために無理に行動するっていうことがないので。あくまでも、自分が興味ある範囲で、っていうのは前提にないと絶対ダメなんです。

僕はある意味で超利己的な人間なので、「お金のために自分に無理して頑張って違う業界に顔を出す」っていうようなことができないんですよ。自分が好きなことしかできない。

 

阿部:そういう熱意を持って自分のやりたいこと・好きなことをどんどんやっていけば、仕事のチャンスも自然と広がっていきますよね。

 

 

水野:よく「好きなことを仕事にするのは幸せか」って議論があるじゃないですか。2番目に好きなことを仕事にしたほうがいいとか。ああいうのが僕はあまり理解できなくて、やっぱり好きなことを仕事にしたほうが絶対にいいと思っています。

もちろん好きなことを仕事にすると休みはなくなりますけど、生きるのと同じように仕事がしたいのであれば、それは絶対好きなことをやるべきじゃないでしょうか。幸せかどうかとかの議論は、なんか言い訳にすぎないのでは、とすら思っちゃいますね。

 

阿部:平日も土日も関係なくなるけど、やっぱり自分が好きなことをやっているのが一番楽しい、という考え方ですね。

 

水野:そういう考え方の人は、僕自身がよく言われることなんですが、仕事を仕事として考えてない、みたいなところがあるのかもしれません。仕事とそれ以外を分けてないというか。仕事を他の人生の事件と区別して特別視する必要がないと思うんです。

僕は自分自身のことを、本当にすごく仕事の能力が低い人間だと思っています。それでも自分らしい仕事ができる確率を高めようとしたらどうしたらいいのかっていうと、やっぱり好きなことを仕事にするしかないなぁと。

 

阿部:そうやってストイックに仕事に取り組まれているうちに、たくさんの案件が舞い込んでくるようになったわけですね。また、水野さんは会社以外にも所属している団体がたくさんありますよね。本当にいろんな仕事の入り口があるんだな、という印象です。

 

水野:バカなんじゃないかっていうくらいの時間をボランティア的に費やしてますね。もっとその時間使ったらいろんなことができるんじゃないかとか、自分で思ってしまうくらい。まぁ周りからはそう見えてないかもしれませんが。

 

 

阿部:でもそれが水野さんのオリジナルというか。いろんな相談を受ける場所を増やし、どんどん自分の時間を割いてやっていく、というスタイルの方はそれまでいなかったわけですよね。

 

水野:どうなんですかね。僕の領域でいうと、エンターテインメントロイヤーと呼ばれる人たちは、当時は大きな企業を相手にするしか仕事として食っていけなかった。それが、そうじゃない時代になってきた。そういうことはあると思います。

 

阿部:いわゆる組織ではなく、個の形でそういう仕事ができる。時代が変わってきてるということですね。

 

水野:大手の出版社やテレビ局、広告代理店などを通じ、初めてユーザーに触れてもらえるというサイクルが20世紀はずっと続いてきました。それが、インターネットを通じて直接つながれる時代になった。これは別に「インターネットを必ず使え」っていう話ではなく、今の時代になって、大きく2つ方法ができたというか、選択肢が増えたと認識すべき話なんです。

ただ、インターネットって便利さばかりが強調されるんですけど、良くも悪くも直接つながってしまう。企業が間に入って法律関係とか利用条件とかをまとめてくれる、というのがなくなっちゃったんですね。だからインターネットのメリットを最大限享受するためには、責任も伴うという時代になっているんです。

 

阿部:確かに。以前では考えられないようなトラブルも増えました。

 

 

水野:もちろんそういう状況ゆえの面白さもあります。例えばコンテンツの届け方のデザイン。僕は「届けるまでがクリエイションだ」っていう言い方を最近よくしているんですが、契約の関係とか利用規約のデザインとか法律の解釈とか、そういうものがクリエイションの一部として入ってきているんじゃないかなって考えています。

僕自身、弁護士としてクリエイティブ・コモンズの仕組みとか、Perfumeのプロジェクトとか、その他諸々の仕事に関わっていく中で、「法律って意外と負の側面だけじゃなく、面白く使える側面もあるんじゃないかな」という実感を持てるようになってきました。

 

いろんなリスクや批判は承知の上で、どこまで徹底的に頭を使い倒せるか

 

阿部:例えば全く新しいプロジェクトとかの利用規約を作るっていうのも、すごく考えを張り巡らせる必要があるわけじゃないですか。そういう、ひとつひとつの道筋を自分の中にあらかじめ作っておいた上で、みんなが安全に走れるように道を整えていくっていう法律家のお仕事は、実はすごく高度でクリエイティブなものだと個人的に思っています。

 

水野:うーん、プログラミングに似てるなと思うことはありますけど、どうですかね。なかなか面白い仕事だとは思いつつ、考えなければいけないこともそれなりにあるから大変ではあります。

 

阿部:勉強も続けないといけないですもんね。最新の動向はもちろん、過去事例や関連事項なんかも全部調べておかないといけない。その前提があって初めて務まる役割というか、責任重大な最後のキーパーとしての仕事というか。

 

水野:そうですね。そういう意味での責任は大きいと思います。ただ、そこはもうしょうがないというか、無責任ぽい言い方ですけど、破られたら仕方ないというか。

例えば僕の今やっている仕事だと、「VALU」というサービスがまさにそういう仕事ですね。

 

 

水野:ただ、その刺されない確率を最大限まで高めるためにというか、刺されたらもう仕方ないっていうところまで、徹底的に頭を使い倒すのが僕の役目なんだと思っています。だって、もともとそういうリスクがないものだとクライアントも考えていないわけで、リスクを完全にゼロにはできないですからね。

 

阿部:いわゆる余白の部分というか、リスクの部分の折り合いが上手くつけられるように努めているのが水野さんのお仕事だと思うのですが、逆にリスクの指摘に終始するような方も多いんですよね?

 

水野:というより、ほとんどがそうじゃないでしょうか。だから、僕に対してはけっこういろんな非難があると思います。

テレビ番組に出た時も、2ちゃんねるを見たら「水野って奴は犯罪者の味方をしてるだけじゃないか」とか結構いろいろ叩かれてました。

想像はしてても、実際にあれ見るとけっこうヘコみますよ。前後の文脈関係なく、バーッとそれだけしか書かれてない。

 

阿部:注目されればされるほど、その種の指摘をしてくる人も増えるでしょうしね。そういう声からどう自分が関わっている案件を守っていくか、というのも一つの大きな課題になりそうです。

 

日本のコンプライアンスからは、「wish」の部分が抜け落ちている

 

阿部:ところで「法律」と「企画」の関係性というのは、どのようなものだとお考えですか?

 

水野:何かこれまでにない、新しい企画を通そうとする時、「その企画がなぜ必要なのか」「社会にどういう価値を提供できるのか」っていうビジョンがまず存在すると思います。

多くの場合、そのビジョンだけでみんな突っ走ろうとするのですが、もう1つすごく重要になるのが、「ロジックを立てられるのか」ということなんです。つまり、法的な適合性を、何らか現行法の解釈の中で立てられるかどうか。

だから企画とは、ビジョンとロジックの両立が必要。両立して初めて上司を説得でき、会社を説得でき、社会を説得できる企画になるっていう話を、最近はよくしていますね。

 

阿部:なるほど。

 

水野:電通のCDの菅野薫さんと対談させていただいたときに伺ったのですが、クリエイティブな企画ほど提案段階のときから、法的な裏付けをしっかり取るようにしているそうです。

なぜかというと、新しい企画をいろんな会議でプレゼンする中で、「いま絶対何か言わなきゃいけない」と思ってる人というのが、どの会議でも一定数必ずいるらしいんですね。

で、そういう人が一番言いたがるのが「これって法的にどうなの?」っていうフレーズらしいんです(笑)。説得しなきゃいけない人が増えれば増えるほど、絶対出てくる言葉だから、まず潰しておかないといけないって。

 

阿部:なるほど。何でもいいから発言しないとそこにいる意味がないと思ってしまって、つい法律のことを尋ねてしまうっていう。

 

 

水野:まぁそれは笑い話としても、やっぱり企画においてビジョンは当然あるべきだけど、そこに至るまでのロジックっていうものも絶対存在しなくちゃいけない。そして、そのロジックの中では、法律的なものの積み重ねが果たす役割がとても大きいんですよ。

だから僕は最近、そういう部分を「戦略法務」と呼ぶようにしています。

 

阿部:戦略法務、ですか?

 

水野:これまでの法務の役割って、予防法務か紛争解決、つまり「事前」か「事後」かっていうことにはっきりと分けられていたんですね。でも最近は、この一歩前段階の法務の重要性が高まってるんじゃないかと思うんです。

例えばアメリカのサービスではUberやAirbnb、そしてGoogleとかが自由に伸び伸びとやっている印象があるのに、日本で同じようなことをやろうとすると、すぐにコンプライアンスとかで叩かれますよね。

 

阿部:アメリカのほうが自由、という印象は強いです。

 

水野:でも、アメリカでコンプライアンスが求められてないわけではありません。むしろ日本以上に投資家やマスコミ、何より一般の社会の目が非常に厳しいため、コンプライアンスはめちゃくちゃ求められてるんです。

こうなると、もう日本のコンプライアンスと海外のコンプライアンスが違うとしか考えられないじゃないですか。だから英英辞典で調べてみたところ、コンプライアンスの意味には「the action or fact of complying with a wish or command」とある。

 

阿部:日本で一般的に訳されている「法令遵守」とは全く違いますね。

 

 

水野:そうなんです。「wish」なんです。「command」よりも前に、自らが何をしたいか、企業が何をしたいか、または社会から何を求められるかというwishが入ってるんです。

そして、wishまたはcommandに従って行動するのが本来のコンプライアンスであったにも関わらず、日本では後者しか訳されてない。むしろ、この誤訳がそのまま適用されてしまっている現状こそが、日本の閉塞感を表現していると言えるのではないでしょうか。

 

阿部:その説は大変興味深いですね……!

 

水野:「ルールは時代と共に変化する」っていうことは前提にしなければいけないのに、wishが思想から抜けてるというのは、けっこうヤバイですよね。

そして、ルールを作る国とルールを守る国という考え方をしたとき、日本は明らかに後者。サッカーで日本が勝てない理由としてもよく挙げられるんですが、やっぱり日本人にはマリーシアと呼ばれる「ずる賢さ」とか「したたかさ」が足りないんですね。

 

 

阿部:ずる賢さやしたたかさ、ですか。

 

水野:日本人でずる賢いとかしたたかって聞くと、何か悪いことやってるみたいに思うじゃないですか。でも本来のずる賢さやしたたかさっていうのは、「自分寄りにルールを最大限に生かす」ことなんですよ。

サッカーでベンゲル監督っていう名将がいるんですが、その人は「自分寄りにルールを最大限に生かすことこそが、知性の証明だ」なんて言ってます。これはやっぱり日本人には無いマインド。そして彼は「そうやって常に自分寄りにルールを引っ張っていくようにしないと、サッカーというスポーツ自体の進化がなくなる」とまで言ってるんですね。

 

阿部:かなり大胆な説ではないでしょうか?

 

水野:いや、サッカーって本来ボールをゴールに入れるだけの単純なスポーツだったのに、いろいろヤバイことやる奴が出てくる度に、オフサイドとかいろんなルールが追加されたわけじゃないですか。そしてその度に、また新しいルールを常に自分寄りに解釈して引っ張っていこうとする奴が出現する。だからこそ、サッカーっていう競技自体が洗練され、面白くなって、進化していったという考え方ですね。

 

阿部:なるほど。

 

水野:これってまさに、アメリカの西海岸の企業とかにも当てはまる考え方じゃないかなぁと思って。というのも、彼らは恐らくある種のフロンティア精神から、「新しい社会のルールを自分たちが作っていくんだ」というマインドを持って、常に引っ張っていこうとしているんですね。

その結果として、現状のルールを自分寄りに有利に解釈していくっていうことをナチュラルに繰り返してるんじゃないかなっていう。

だからこそ、そんな風に日本のコンプライアンスの考え方を変えていきたい、というのが最近の僕の一番のテーマなんです。

 

規制や法務のせいにして、企画から逃げていないか

 

阿部:水野さんは今年『法のデザイン』という単著を上梓されましたが、主にどういう方に読まれているのでしょうか。

 

水野:そうですね。僕がターゲットにしていたのは、クリエイターや起業家はもちろん、いわゆる大企業のビジネスマン、官公庁や政府の役人という人たちだったのですが、そういうところにちゃんと広まってくれたという感触はあります。

実際、大企業系の仕事のオファーが増えただけでなく、内閣官房に呼ばれて国の政策みたいなところに口を出させてもらう機会などが、以前よりも確実に多くなってきました。

 

阿部:国の政策というと、たとえば日本企業の海外へのアプローチ方法とかですか?

 

水野:そういうのも含め、総合的にですね。例えば、もともと「海外は規制が弱くて、日本は規制が強いから、日本でイノベーティブなことやるのは難しい」みたいな、単純な日本の印象論ってあるじゃないですか。あれって実は全てがそうというわけではないんです。

世界的に見て、日本のほうが全然緩やかなルールで運用されている分野は多くあります。特に昨今の人工知能や個人情報、プライバシー周りの法規制について、実は日本ほど天国という国はないんですよ。

 

阿部:え、それはすごく意外です。

 

水野:そうなんです。よく「日本では規制が強いからできない」って、いろんなことを法律のせいにして断念していますが、実は本当に「法律のせいでできないこと」って、すごく少ないと思うんですよ。

実際は法律よりも、「コンプライアンスの問題」とか「前例がない」とか、「なんかイメージが悪くなりそう」とか、そういう壁の厚さによって断念してることのほうが圧倒的に多いんです。

だから皆さんも企画をチェックするときは、「法的にできないから」みたいなのは、けっこうマユツバものだと思って見たほうがいいんじゃないですかね。

 

 

阿部:ところで、現在水野さんが担当されているお仕事の割合っていうのは、どういう感じなんでしょうか。

 

水野:仕事の割合自体は、意外に普通のロイヤーですよ。いわゆる企業法務と呼ばれるロイヤーなので、毎日のようにせっせと契約書をレビューしたり、ドラフトを作成したりする。それが6割ぐらいですかね。あとは訴訟が3割くらい。そして、その他のちょっと変な仕事が1割くらいです。

 

阿部:その1割というのが、クリエイターの方たちとの新しい試みや仕組み作りというわけですね。

個人的には、そういう分野でクリエイター側も、いかにリスクに対して鼻を利かせられるかが今後大事になるのかなと思っています。こういう時どうすればいいか、とか、これは微妙なラインだな、とか。

 

水野:まぁでも、今活躍してるクリエイターはみんな、何かやっぱり鼻が利いてますよ。自分が新しいことをやろうと思って、それが新しければ新しいほど既存のルールに引っかかるというのが前提になってるからでしょうね。

彼らは別に、あえてイリーガルなことをやりたいともグレーゾーンを突き進みたいとも考えていないんです。イリーガルなこと自体が価値とは全く思っていなくて、ただ単純に自分がやりたい表現上そういう場面があり得るってときに、どう対処するかという部分の問題でしかないんですよ。

 

阿部:新しいことをするためには、これまでの歴史をちゃんと踏まえた上で、その「次」に何をやれば本当に新しいか。それを常に練りながら行動を起こしてるのがクリエイターですもんね。

 

 

水野:そのロジックをちゃんと作らせる役割というか、裏付けのために力を貸す存在が、僕の位置付けになると思います。

あらゆる切り口から対象を見つめ直すことが法律家の仕事であって、決して保守であることが正義というわけでもない。

ただし何て言うか、僕はこういうスタイルなのでよく勘違いされるんですけど、企業で何かをストップさせる法務部門の役割とか、ディフェンシブなことをちゃんと言う弁護士の存在も絶対に必要なんです。僕だってダメなものはダメだって言うし。だから、そういう機能とかそういう役割の人を「保守的」と見下しちゃ絶対ダメというか、それがすごく大事であることも大前提として認識しておかないといけないんです。

 

阿部:緩ければいいというものでは絶対にない、と。

 

水野:攻めすぎたというか、予防法務が機能していなかったから大問題になったという事案は世の中にたくさんあるんです。僕はただ「とはいえ今の時代は保守的なばかりじゃダメだよ、食われちゃうよ」っていうことを言いたいだけなんですよね。

だからこそ、もっと戦略と予防法務の両方、つまり戦略法務を重視しないといけない。企業でも、やっぱり法務機能は今後ある程度二分していく必要があるのでは、と最近よく思います。

 

法務担当をきちんと巻き込んでいるか、パートナーと見ているか

 

阿部:それでは最後の質問なのですが、攻めの部分で法務担当を上手く味方につけるためのコツのようなものはあるのでしょうか。企画者の方は、どうしても対立しがちな相手というか、ストップをかけられる相手という認識を持ってしまいがちなところがあると思うので……。

 

水野:そうですね。たとえば大きな企業だと、法務部門にも1人くらいは絶対変な奴がいるんですよ。守りよりも攻めが好き、みたいな。だからそういう人を探せばいいんですけど、どうやったら見つかるかっていうのはすごく難しい。喫煙室とかかな。(笑)

ただ、やっぱり重要なのは「法務的な相談は最後に持っていくんじゃなく、最初から相談すること」だと思うんです。やっぱり法務部門って何でも最後に持ってこられるんですね。だから「今の段階で持ってこられても無理!」みたいなのが多くなり、保守的な対応をせざるを得なくなってしまう。

でもその一方で「最初から相談してくれれば、もっと何とかなったのに……」みたいなケースも確実にあるんです。

 

阿部:最初から相談するっていうのはけっこう大事ですよね。

 

水野:すごく当たり前な話なんですけど、法務部門の担当者だって人間です。他の関係者と同じように、一緒に案件を盛り上げていくというか、巻き込むというか、そういうパートナーだという意識を普段からどれだけ企画者側が持っているか。それに尽きると思うんです。

だから味方というか、「今ちょっとこんなの考えてるんですけど、どうですかね」みたいな、そういう相談を気楽にできる人を1人作っておくだけでいいんです。それだけで、ロジックの伴ったいい企画が生まれやすくなると思うんですよね。

 

阿部:確かにそうですね。企画をする人間にとって、法務はとても重要という意識はありながら、巻き込むべきパートナーだという意識はまだまだ低いようにも思えます。水野さん、本日は本当にありがとうございました!

 

 

以上、水野さんによる法律の企画術のお話、いかがだったでしょうか。ポイントをまとめると以下のようになります。

 

 

今回のお話から、あなたはどんな学びや気づきが得られたでしょうか。あなた自身の日々の企画に活かし、人生を“ちょっと良い方向”へと変化させるヒントになったなら幸いです。

 

それでは、次回の企画の話もお楽しみに。

 

インタビュー:阿部広太郎 文:森川ヨシキ 撮影:佐藤亮平 企画協力:企画でメシを食っていく(運営・BUKATSUDO)

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