これからの小説家の生存戦略とは? Webサービスを立ち上げた至道流星、架神恭介に聞く

2017/5/18 11:31 ネタりかコンテンツ部

「本が売れない時代」と言われています。日販調べによる昨年(2016年)のベストセラーランキングでは、文芸書の割合が増えたといった変化はあったものの、100万部を超える書籍が出ませんでした。

そんななか、2016年の12月に「トークメーカー」というWebサービスがリリースされました。

 

▲トークメーカーのサイト画面

 

このサイトは、「会話」に中心を置いた小説投稿サイトです。投稿者はキャラクター同士をチャットアプリのように会話させて、ストーリーを作り、それを公開することができます。

 

▲キャラクターの会話で物語を進行させる

 

サイトを制作したのは自身も小説家として活動する至道流星さん。

至道さんは同じく小説家の架神恭介さん、泉和良さんとともに「オンライン座談会」と称してチャット形式の座談会をトークメーカー内で定期的に開催。動画クリエイターやWeb作家、ブロガーなどをゲストに呼び、“クリエイターとしてどうサバイブしているのか”について聞いています。

小説家自身がWebサービスを作り、そのサイト内で他の作家に「サバイブ」をテーマにして座談会をしている。そこに特別な思いがあるのではないかと思い、話を聞きました。

 

 

至道流星(左)

小説家。2009年に講談社BOX新人賞で大賞を取り、デビュー。『大日本サムライガール』シリーズ、『羽月莉音の帝国』シリーズ、『世界創造株式会社』シリーズなど著書多数。別名でビジネス書の執筆も行う一方、IT系の会社を経営する実業家でもある。

 

架神恭介(右)

作家、漫画原作者。2005年に『完全パンクマニュアル』で作家デビュー。2010年に『戦闘破壊学園ダンゲロス』で講談社BOX新人賞Powersを受賞。ノンフィクション、小説、漫画原作などを幅広く手がける。

 

なぜ小説家がWebサービスを始めたのか

 

──トークメーカーの「オンライン座談会」、読ませていただきました。まず、なぜこのようなサイトを立ち上げたのかを教えてください。

至道:本を出してもたくさん売れる時代ではありません。この過渡期に作家としてどう戦っていくかを考えたいと思ったからです。

僕たちの一つ前の世代の作家が新しい挑戦としてやっていたのは、電子書籍やメールマガジン。でも、作家自身がやる試みとして、もっと作家らしい戦い方があるんじゃないかと。

僕はたまたまシステム開発などをおこなうIT系の会社経営もやっていたので、“作家自身が小説投稿できるようなメディア”を作ったら面白いんじゃないかと考えたんです。

それで、同じレーベルで小説を出している架神さんに「一緒に何かできませんか」と相談を持ちかけました。

 

──なるほど。出版社が作ったサイトに参加するんじゃなくて、自分たちでサイトを作ってしまおうと。架神さんはその話を聞いて、どう思いました?

架神:自分たちのメディアがある、というのは強いな、と。自前の情報発信能力さえ確保しておけば、出版業界に何があっても対応できるので。

 

──以前から出版業界には危機感を持っていた?

架神:危機感は……あると言えばあるし、ないと言えばないかな。俺は何かあったらすぐ逃げようと思っている人だから(笑)。出版業界が沈みかけたら直ちに逃げ出しますんで、そういう意味では危機感はないですね。

今もたまたま作家業で食えているので、これをやっていますが、食えなくなったら他のことをやりますよ。

至道:僕が架神さんに相談したのは、いい意味で欲がない人だから。出版業界をやめようと思えばやめられると思っているので、ガツガツしてないし、信用できる。

架神:ていうか、出版業界うんぬん以前に、俺はやっていることが特殊だから。簡単に売れ筋に寄せられない作風(*1)だし、そもそも出版業界より前に俺が沈む可能性のほうが遥かに高い。

なので、特殊なことをやりながらも、どうサバイブするかっていうことを重視しています。となると、いろんな武器があったほうがいいよね、メディアもそう。

至道:僕も架神さんほどじゃないけど、特殊性は強いほうなので、その中で生き残るにはまずメディアを持つのが大前提になるだろうな、と。

それでトークメーカーを立ち上げ、自分自身が学べて楽しめるコンテンツの1つとしてオンライン座談会をはじめました。

(*1 架神さんはエログロ要素を含んだ能力バトルものの小説を書いている)

 

Web小説は業界のスタンダードになる?

 

──座談会では動画クリエイター(*2)、Web作家(*3)、小説講座をやっている小説家など、さまざまなタイプのクリエイターを呼んで、生存戦略を聞いていますよね。Webサービスを立ち上げた理由と繋がりますが、この座談会を始めたのも作家の生存戦略を探るためなのでしょうか。

至道:まず、自分たちがやっていて楽しいという大前提があったうえで、他分野の作家を招いて学ぼうというのがありました。

でも、自分たちで雑談して終わりではなく、トークメーカーのユーザーさんも参加できるような形にしたいなと。それで質問コーナーも設けています。

(*2 動画投稿サイト「YouTube」や「ニコニコ動画」などに自作の動画を投稿しているクリエイターのこと)

(*3 小説投稿サイトを中心に活動している作家のこと。投稿サイトで人気を得た作品は書籍化されることも少なくない)

 

──とりわけWeb作家の座談会(*4)は衝撃的でした。あれも作家の新しい生存戦略ですよね。

架神:あれは最初は飲み会の席での話だったんですよね。新木さんの話がすごく面白くて、それを座談会でやってほしい、と俺が頼みました。

唯一心配だったのはあんな暴露的トークをWebという公開の場でやれるかどうかってことでしたが……。ウン! 杞憂でした。

至道:実際杞憂だった。「精神的ポルノを書いている」というような考え方から洗いざらい話してくれた。

実際にその方法論に則ってWeb小説の投稿を始めたユーザーさんもいるようです。僕らだけでなく、ユーザーさんにとっても、現実の学びの場になっているなぁと。

(*4 小説投稿サイト「小説家になろう」で活動している新木伸、三木なずな、作家Kの3人を招いて行われた座談会。どうすれば「小説家になろう」で人気作が生み出せるのか、書籍化に繋げられるのかをテーマに、毎日更新する、ウケるタイトルやあらすじを考える、ランキングの分析の仕方など、具体的な手法が話された)

 

──座談会以前はWeb作家についてどう思っていましたか?

至道:実態はぜんぜん知りませんでした。

でも、一時期からライトノベル業界では存在感がありました。昔はラノベ作家はシリーズの1巻を出せば、誰でも3巻ぐらいまで出せたんです。それが、今では8割が1巻で打ち切りです。

それに対し、Web小説の書籍化の場合は相変わらず3巻は出せます。刊行前にすでに人気が確立されているからですね。

架神:だけど、Web作家が具体的にどういう手法で人気を確立しているのかはほとんど知られてなかったんだと思います。あの座談会は業界内でも注目されて、あれをやっているときは飲み会で作家に会うと「あの座談会読んでるよ、すごいよな!」と言われたもんです。

 

──毎日更新する、タイトルやあらすじを修正して試行錯誤する、人気が出なかったら打ち切りにする……などかなり具体的でした。

読んでいて思ったのは、Webメディアの手法に似ているな、と。僕らが記事を作るときも、毎日数字を見て、タイトルを変えて、というのをやっています。

至道:確かにそういうマーケター的要素が強いかもしれませんね。そこは文芸系が弱い部分です。特に僕は、人の作品をまず読みませんし。

架神:俺は読みますよ(笑)。でもマーケティング的な視点はあんなに持ってなかったなぁ。普通の人が読んだら、小説家っていうか「まるでデイトレーダーだ!」みたいな印象を受けるかもしれないですねー。

至道:そもそも小説家になりたい、という人の夢や幻想を打ち砕くような内容です。でも、そういう反応はあって当然とわかってやっています。

 

──業界内の反応として、賛否はどちらが多かったんでしょうか?

至道:「自分ではできないけどスゲぇ!」というのはプロ作家の人も言っていました。でも、実際やってみようという人はなかなかいない。むしろ素人さんのほうがハードルを感じないかもしれません。

架神:いやいや。アマチュアの人でも、あれを実践しろって言われてハードル感じないって、けっこうなタフガイですよ……。

至道:人によるとは思いますが、毎日更新とかだけならできる人はできる。でも、作家性をどれだけ殺せるかというのは難しい問題かも。ただ、実際にユーザーさんがやってみて成果が出ていることからも、“攻略法”としては正しかったのではないでしょうか。

 

──ケータイ小説(*5)と似ている部分もあるのかなと思いました。ケータイ小説も一時期は書籍化が多かった印象がありますが、業界内での扱いってどうだったんでしょうか。

至道:それはWeb小説と同じですね。でも、ケータイ小説はスマートフォンの登場で勢いが落ちました。そういうデバイスの交代がなければ、Web小説は一つのスタンダードになる可能性もあるだろうなと思っています。

架神:俺はケータイ小説を書いてみたことがある(*6)んだけど、「これからはみんな携帯で本を読むようになるかも!?」と思ったからなんだよね。実際、その予測はあたったわけだけど、何一つ波には乗れてないな……。

(*5 主にガラケーの携帯電話で書かれ、読まれる小説のこと。改行が多い、情景描写が少なくセリフ中心でストーリーが進む、などのいくつかの特徴がある。『Deep Love』『恋空』『あたし彼女』など、書籍化したものも多い)

(*6 2008年、作家の瀬戸内寂聴がケータイ小説を書いたというニュースに触発され、いくつかの作品を執筆した)

 

──現状のWeb小説の読者層は?

至道:書籍化したものを買っているのは40歳前後で、Webで読んでいるのは若い人が中心ですね。若い人はお金を出さずに無料で楽しむっていうのが定着しているのかもしれません。

 

──Webから作家デビューが増えましたが、既存の新人賞は廃れるんですかね?

至道:残るは残るだろうけど、実際、いま賞を取っても何の保証もありません。昔は読者側にも、面白い新人作家を見つけようと本を買う層がいたんです。それがいつの間にか瓦解してしまいました。そういう人は、今Web小説を読んでいるかもしれません。

新人賞は作家としての生き残りを何も保証してくれなくなりました。

架神:でも、入り口としてWebだけじゃなくて他にもあるというのは、大事ですよね。

至道:作家の多様性として、出版社の賞には頑張ってほしいです。でも、ビジネスとしては成立してないので、やると赤字になるという現実はあります。

架神:あと、Web小説を書くには時間が必要って話もありましたね。毎日更新が戦略として求められるから、仕事や家事の合間に書くというのは難しい。一年じっくり時間をかけて、新人賞に応募するというのは選択肢としてありなんですよね。

至道:だから残ってほしいです。自分たちも賞デビューだったので思い入れはあります。

架神:Webから書籍化するよりも新人賞のほうが厳しいってイメージあるけど、Web小説の人たちはすごくタフだからなぁ。あっちの人たちの方が生存能力高そうなんだよね。

 

今後は作家が出版社と同様の発信ができるようになってくる

 

──Webサービスを作家が作る、というのは今まであまりなかったと思います。

至道:そうですね。同人誌の発行やブログを立ち上げるというのはたくさん例があると思いますが、プラットフォームにまで乗り出すというのはなかなかないと思います。

架神:俺たちは紙のうえに文字を書く仕事であって、紙を作る仕事じゃないからね。

至道:今のサイトはたまたまウチだったから運営できているわけで、全部外部に依頼した場合だと立ち上げで数千万、運用だけでも月に数百万ぐらいはかかります。いろんな偶然が重なったからこそ、成立しているものなんです。

 

──なかなか個人の作家が運用に数百万はかけられないですよね……。

至道:プラットフォーム事業ともなればお金がかかります。そこそこの投稿サイトなら立ち上げだけで1000万。トークメーカーはそれ以上かかっています。普通はやろうとは思わない規模だと思います。

自分はたまたま小説家で、今まで50冊ぐらい本を出してきて、これからも出すわけで。そんな中、出版社という古い秩序があり、それはそれで必要な存在なんですが、それとは別に作家がファンサービスできる場があっていいんじゃないかな、と。

だから、自分たちだけで閉じるのではなくいろんな人に開放して、そこに人がきてくれればと思います。

トークメーカー座談会を主催する作家・クリエイターの方からは一切マージンは取りませんので、開催希望される方は遠慮なくお伝えください。純粋に活用してほしいと思っています。プロ・アマ問わず、いろんな方法で活用してほしいです。

いまは過渡期です。そんな中でたまたま僕らみたいな存在がいて、たまたまできる環境にあって、偶然勝負できる環境になった。でも、必然的なものだと思います。

 

──今、お二人がゼロからのスタートで作家になるとしたら、どの戦略を取りますか。

至道:今、純文学系の作家の方と座談会をやっていて、いろんな学びがあったんですが、結局は自分は自分として勝負するしかないんだろうな、と。

戦略として知ったところで、自分がWeb作家や純文学作家のようになれるかというと、自分は自分でしかないんじゃないかと。

だから、会社もやるし、小説もこんな感じで書くだろうから、結局自分は自分になるなと。

 

──現在取っているスタイルが一番合っているってことでしょうか。それぞれ特性がありますからね。

架神:俺はゼロからのスタートなら、イケダハヤト(*7)さんのフォロワーになるね! アフィリエイターになるよ! 小説家はなぁ。なる、ならないじゃなくて、書きたくなったら書くものだから、書きたいときが小説家になるときかな?

あと、イケダハヤトさんとの座談会を経て強く思ったんだけどさ……。今やっているボードゲームの仕事(*8)が終わったら、俺は1日4時間しか働かない。これを徹底する! 自分を追い込むために、これは記事に書いておいてほしい(笑)。

至道:トークメーカーの座談会は仕事じゃない時間にカウントにしてくださいね(笑)。

架神:油断すると8時間も10時間も働いちゃう。覚悟が足りない。命がけで働かない、という気持ちをもっと持たなきゃ! 今日もさっきまで仕事しちゃってたからね。

(*7 ブロガー、アフィリエイター。高知の山奥に住みながらブログを更新し、その収益で生活をしている)

(*8 架神さんは自作の小説『戦闘破壊学園ダンゲロス』のボードゲーム化を進めている)

 

──ありがとうございました。

 

(取材・文:菊池良/ネタりかコンテンツ部)

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