「東京オリンピックの開会式に出たい」 人力車で世界一周する男たちに話を聞いてみた

2017/4/20 19:01 ネタりかコンテンツ部

 

こんにちは! ベトナム在住ライターのネルソン水嶋です。

 

 

今、ここベトナムの地で、人生初の「人力車」に乗っております。

 

「なんでベトナムに人力車があるの?」と思った人のために説明しますと、なんとこの人力車、浅草から海を渡り、2231kmの道を走って来たというのです。トラックでの移動も含めると、その距離4321km!

 

▲人力車を引いてきたのは、真っ黒に日焼けしたこの3人!

 

左から、平野さん、鈴木さん、高橋さん! 40kmずつ交代しながら3人で人力車を引いてきました。

 

なんと彼らは浅草で人力車を引く、正真正銘の俥夫(しゃふ)。浅草と鎌倉で展開している「東京力車」という人力車の会社に所属する、キャリア1~4年の若手です。

 

3年間に渡って人力車で世界をまわる「世界一周人力車の旅」というプロジェクトを実行中(取材時点で212日目)の彼らは、これまで東京から大阪、中国、台湾、香港、ベトナムと旅をしてきました。今後は、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、モロッコ、スペイン、ポルトガル、フランス、イタリア、アメリカ、ボリビア、オーストラリア、計16の国と地域を巡ります。

 

目標は「東京オリンピックの開会式に日本の文化として参加すること」とのことですが、そもそも「なんで人力車?」「どういう経緯で?」「大変じゃない?」など疑問は尽きません! 今回たまたま友人から紹介される機会があり、話を聞かせてもらえることになりました。

 

▲世界一周出発の日。いつもの仕事場、浅草寺の雷門前から!

 

 

人力車は47都道府県にある!? 意外に身近な人力車

私「人力車に乗ったの、さっきが初めてなんです」

 

高橋さん「えっ? 初めて? 珍しくないですか?

 

私「いやそんなことないよ! だって人力車って、浅草のほかだと、京都や鎌倉みたいな古都にしかないイメージだし。全国各地にあるものじゃないでしょ?」

 

平野さん「47都道府県すべてにありますよ!

 

私「え! ほんとに!?」

 

平野さん「歴史のない場所は存在しませんから

 

私「おぉ、名言だ……!」

 

高橋さん「僕の生まれは秋田なんですが、北東北は平泉や角館など、観光地でもある古い町並みが多いんですよ。だから、子どもの頃から人力車の走る光景が当たり前でしたね」

 

私「へー、知らなかった」

 

▲自撮りした仕事風景。普段から撮影機材を持ち歩いてるのか……!

 

▲ベトナム・ムイネーという街にある砂丘にて! 世界観飛びすぎ。

 

 

体力、記憶力、トーク力! ハイスペックな俥夫の仕事

私「俥夫の仕事について教えてください。体力仕事であることは間違いないけど、よく喋るイメージもある」

 

鈴木さん「いろんなスキルが必要とされますね。人力車を引く体力は当然必要だし、街を案内できる知識も持たないといけない。それに加えて、お客さんに声を掛けて引き込む営業トークも必要です」

 

私「想像するだけで大変そう!」

 

鈴木さん「最近は外国人のお客さんも多いので、独学で英語を話せるようになった人もたくさんいます」

 

私「トーク力はあるし、体力もあるし、記憶力もあって、英語も話せるとか、いち社会人としてスペック高すぎでしょ! でも同時にそれだけ大変な仕事だとも言えるけど、それでも続ける仕事の魅力って何でしょう?」

 

鈴木さん「いろいろありますが……条件面で言えば、自分でシフトを組めるということが大きいですね」

 

▲シクロ(ベトナムの荷台付き自転車)といっしょに撮影。

 

観光組合があり、そこに所属する人力車の会社が十数社存在するなか、最近では組合に所属しない会社やフリーの人力車も増えてきているんだとか。

 

高橋さん「人力車をやる人は夢を持っている人が多いんですよ。アーティストだったり、ボクサーだったり、ラッパーもいます」

 

私「ラッパー!? 幅広いなぁ」

 

平野さん「あと俳優が多い!」

 

高橋さん「そう! 俳優はかなりいる」

 

私「あ、でもそうか、トーク力や体力を鍛えるという意味でも、人力車の仕事は俳優としての基礎力を磨くことにつながるよね。海外進出も視野に入れている人なら英語だって役に立つだろうし」

 

高橋さん「女性もいますよ。浅草の俥夫が全体で200人くらいいて、その1割くらいですが」

 

私「工業高校みたいな割合だな……。でも、女性が人力車引けるの!?」

 

高橋さん「テコの原理の応用なのでコツさえ掴めば! 男女それぞれの引き方があるんです」

 

3人が所属する東京力車では、基本料金が1人3000~5000円、2人だと4000~7000円、30分から120分までの貸切になると9000円から3万円まで変動する(詳しくは料金表を参照)。ただし、金額は俥夫の裁量でいくらでも決められるらしく、お客さんからチップをもらう場合もあり、それこそ本人の営業トーク次第なのだとか。

 

 

人力車のやりがいは「人との出会い」

私「人力車の仕事のやりがいって何でしょう?」

 

鈴木さん「人との出会いですね! 俥夫をやっていると話のネタがたまっていきます」

 

私「どんなネタがありますか?」

 

鈴木さん「浅草からディズニーランドへ人力車で乗せていったお客さんの話とか……」

 

私「なにそれ!? 行けるの?」

 

鈴木さん「行けると言えば行けます! というか、行きました!」

 

私「いやでも、電車なりバスなりあるのになんで人力車で……」

 

▲そんなディズニーランドでの写真、人力車とのミスマッチ感がすごい!

 

鈴木さん「お母さんと小さいお子さんの親子だったんですが、前日まで7日間、浅草を案内してたんですよ」

 

私「浅草好きすぎるだろ」

 

鈴木さん「でもさすがに案内できるネタの引き出しもなくなって、冗談で『ディズニーランドでも行きますか!』と言ったら『いいですね、行きましょう!』って。僕もいっしょに入場して、『こちらがアドベンチャーランドになります~!』といった感じで案内しました」

 

私「すごい話……案内している間、人力車はどうしたの?」

 

鈴木さん「オリエンタルランド(ディズニーランドの運営会社)に電話して、『人力車で行きたいんですが、駐車料金はおいくらですか?』『500円です』ってな感じで。ふつうに許可もらえました」

 

私「ディズニーランドでの人力車の駐車代は500円! 需要の狭すぎる知識だわ……(笑)」

 

そのほかにも興味深い人力車エピソードをたくさん聞けたのですが、このままじゃいつまでも世界一周の話にたどり着けないので、惜しみながらも箇条書きにてご紹介!

 

●信号で止まるたびに5000円のチップをくれたお客さんがいた(当然乗車賃より多い)。

●目が見えないお客さんを乗せたところ、話していないのに「この建物なくなったんだ」と風景が見えているかのようで人体の神秘に驚いた。

人力車は一台200万円する。新車買えちゃう。

●人力車の操作や街の歴史などを覚える無給の研修期間があり、センス次第で3週間~半年間の幅がある。

●人力車の各社の営業エリアは決まっており、お互いに立ち入ってはいけない。

●お客さんへの営業中にほかの俥夫が声をかけることは「かぶせ」と呼ばれ、タブー視されている。

●観光組合のルールとして、街案内で言ってはいけないことがある。たとえば、花やしきを紹介するときに「ディズニー」を引き合いに出してはいけない(引き合いに出さなければ、ディズニーの話をしたり行ったりしても問題ない)。

●最近は組合に所属しない会社やフリーの人力車も増え、暗黙のルールが破られつつあり、浅草の人力車は戦国時代に突入している。

 

▲香港の団地に挟まれる人力車。

 

 

どうして人力車で世界一周しようと思ったのか?

私「で、今更ですが、どうして人力車で世界一周しようと思ったんですか?」

 

鈴木さん「大学3年の頃にバックパッカーで欧州やブラジルに行ったんです」

 

私「お、どちらもサッカーが盛んだ」

 

鈴木さん「はい、僕は、15年間サッカーをつづけてきたサッカー小僧でして」

 

▲ブラジル旅行中、偶然出会ったネイマール選手と。

 

鈴木さん「その旅がすごく楽しくて。それで世界一周がしたくなり旅の資金を集めるために働くことにして、たまたま来ていた浅草でなんとなしに人力車のお兄さんに『その仕事どうですか?』って聞いてみたんですよ」

 

私「おぉー、その話に引き込まれたのがきっかけで!?」

 

鈴木さん「いや、それが、そのお兄さんはアバウトなことしか言わなくて(笑)。『やってみたら分かるよ! 人生そのものだから!』って」

 

私「説明する気がないな(笑)」

 

鈴木さん「あまりに楽しそうに話すものだから、そんなに言うならやってみようかなと思ってはじめました」

 

私「アバウトが結果的によかったんだ」

 

鈴木さん「それから人力車の仕事をつづけるうちに、サッカーと同じくらい好きになっちゃって。でも世界一周はしたいし、どうしようかと考えていたときに『それなら、いっそのこと人力車で世界一周しちゃえばいいんじゃない?』と思いついたんです」

 

私「合理的だけど、すごい大変なことを思いついたね(笑)」

 

▲台湾の龍山寺にて。

 

 

私「世界一周は鈴木さんの夢で、それを手伝うとして、2人が人力車をはじめたきっかけは?」

 

高橋さん「僕は芸人になるために秋田から上京しまして」

 

私「そうなんだ!」

 

高橋さん「芸の肥やしってことで、いろんなキツイ仕事をやろうと思い、ホスト、新聞配達、ホテルマン……とやってきて、人力車もそのひとつだったんですよ」

 

私「確かに、さっき聞いた話だとめちゃくちゃキツイよね……」

 

高橋さん「鈴木とは1カ月違いのほぼ同期で、世界一周の夢も知ってたけど、『日本から応援するよ!』ってスタンスだったんですが」

 

鈴木さん「それを『俺に人生賭けてくれ!』って頼み込んだんですよ」

 

私「熱いなぁ……!」

 

高橋さん「その頃、ちょうど芸人としてレギュラーの仕事が決まったばかりで」

 

私「えー!」

 

高橋さん「悩んで、悩んで、仕事は断り、マネージャーにも背中を押してもらう形で、鈴木といっしょに行くことに決めました」

 

私「そうなんだ……。いや、でも、それこそまさに芸の肥やしになるだろうし、芸人としてひとつの選択肢ではあるように思います」

 

高橋さん「そうですね、それもあります」

 

▲高橋さんの芸人活動風景。後ろのネタ合わせ中っぽい芸人さんとのギャップがすごい。

 

 

私「平野さんは?」

 

平野さん「僕は小学校6年間は上海にいて、中高は東京だったけど大学はカナダに2年間と、海外で暮らすことが多かったんです」

 

私「おー! この旅じゃ心強い経歴だ」

 

平野さん「はい。それで中国語と英語も話せるので、駅で困っている外国人観光客の方を手伝ったりすることが好きで。人力車の仕事をはじめた理由も、外国人のお客さんが多いのでその手伝いが当たり前にできるということと、体力もつくからでした。ちなみに、やろうと思って声をかけた相手が鈴木だったんです」

 

私「さっきから人力車のはじめ方が『俥夫のお兄さんに声をかける』になってるけど、たまたまだよね(笑)」

 

平野さん「はい、たまたまです(笑)」

 

私「ドラマだなー。それで、平野さんの世界一周に同行することになった理由は何?」

 

平野さん「最初の国が中国だったので、その期間だけいっしょについて来てほしいと頼まれていました」

 

私「あぁ、中国語が話せるから」

 

平野さん「ただ、僕、将来はカナダで日本食レストランを経営したいという夢があって、後学のためにも世界を見て回りたい思いは以前からあったんですね。でも一方で、父が体調を崩していたので世話を見ないといけない。どうしようかと悩みに悩んで、最後は自分の人生だから、親父ごめん! と、鈴木といっしょに最後まで世界を周ることに決めました」

 

私「3人全員がドラマの主人公かってくらい、濃い背景だ……」

 

▲カナダ留学時代の平野さん(左から3番目)。

 

 

これまでの道中で楽しかったこと、つらかったこと

私「すでに7カ月かけて4つの国を回ってきたというのも相当なものだけど、これまで楽しかったことや、逆につらかったことってありますか?」

 

高橋さん「楽しかったと言えば、静岡でテレビのロケと遭遇しましたね。ちょうど(お笑いコンビの)COWCOWさんがいて、いじってもらえて、地元のテレビ番組で紹介してもらいました」

 

私「静岡って、世界一周の開始早々じゃないの!?」

 

高橋さん「はい、9日目(笑)」

 

▲番組では二度紹介され、静岡を走っていた人力車が総集編ではベトナムに! COWCOWさんにはときどきTwitterでの活動報告ツイートをリツイートしてもらっているとのこと。

 

 

鈴木さん「あとは、ロマンチストボーイだね」

 

私「ロマンチストボーイ?」

 

鈴木さん「ベトナムを縦断しているときに自転車に乗った青年が話しかけてきたんです。今までもよくあったもんだから『いっしょに写真撮りたいの?』って聞いたら、『いや、空気入れ貸してくれ』って(笑)」

 

私「見慣れない車(人力車)を走らせてる外国人によく聞いたなそれ(笑)」

 

鈴木さん「話を聞いたら彼もベトナム縦断中で、その目的がハノイから発ってホーチミンにいる彼女にプロポーズをしに行くと」(※ハノイとホーチミンはおよそ1500km離れている)

 

私「ドラマだ……!」

 

鈴木さん「なのに所持金が日本円で2000円くらいしかないそうで、ごはんをおごって、みんなで告白の練習をしたりしました」

 

私「ええ話や……それで、プロポーズの結果は?」

 

鈴木さん「Facebookで『成功した』と報告がありました」

 

私「よかった……!」

 

▲そんなロマンチストボーイが、中央の彼!

 

 

鈴木さん「あとつらいことと言えば、中国の山道で足を滑らせて人力車の(手でつかむ)棒が折れたとか、その状態でけもの道みたいなところに入らざるを得なかったとか、ほかにもベトナムでの税関の手続きミスで3週間くらい人力車を受け取れず足止めを食らったとか……アクシデントは尽きないですね」

 

私「身体ひとつあれば済む話じゃないもんね。それは大変だわ!」

 

▲大阪港にて。フェリーへの人力車の搬入方法がまさかの吊り下げでヒヤヒヤ。しかし、さすがはプロの仕事で、とても安定していたとのこと。

 

▲中国の山道でバッキリと折れた、人力車の手をかける棒。

 

 

私「人力車が壊れたらどうするの? その、まさに棒が折れたときとか」

 

高橋さん「もちろん修理します。ベアリング(車輪)の構造は自転車と同じです。そのほかは日用大工に近い。ただ、定期的にメンテナンスは必要なので、半年くらいの間隔で帰国して修理しないといけません」

 

私「あぁ、そうなるのか。修理期間はどれくらい?」

 

鈴木さん「人力車の修理ができる業者は多くないので、そこはどうしても3カ月かかっちゃいますね」

 

私「それは、早く行きたいってウズウズするんじゃないの?」

 

高橋さん「いやー、その3カ月が天国ですね! 待ち遠しい!」

 

私「それでも旅をつづけるのか……(笑)」

 

▲宿泊施設がないときはテントを張って野宿。

 

 

2020年東京オリンピック、開会式で人力車を見る日も近い!?

あまりに興味深く根掘り葉掘り聞きすぎてしまいました! 3人それぞれにストーリーがあって、話が終わる頃には私も一人のサポーターとして心から応援したくなりました。

 

このまま彼らが無事に旅をつづけ、念願が叶って、世界中の人が見守るスタジアムでスポットライトを浴びながら人力車が走る日が来ることを願っています。

 

 

彼らの動向を追いかけたいという人は、各SNSでのアカウントをご覧ください。この記事が公開される頃、ちょうど彼らはカンボジアを走っているはずです。

 

Facebook

Twitter

Instagram

YouTube

 

私「ちなみに、ほかに人力車で世界一周するって人がいたら、何てアドバイスする?」

 

高橋さん「素直に『やめとけ』って言います(笑)」

 

平野さん「でも、やるなら仲間といっしょに。荷物もあるし、山を登るのにも人手が必要だし、やってることはスポーツと同じですから」

 

鈴木さん「マラソン選手並の体力づくりからはじめてください」

 

私「なるほど、ありがとうございました!」

 

3人「ありがとうございました!」

 

ネルソン水嶋+有限会社ノオト

ベトナム在住のライター。現地のマニアックな魅力を伝えるウェブマガジン「べとまる」(外部サイト)で活動中。そのほか、ガイドブックやイベントなども企画。

このネタ読んでどう思う?

投稿ありがとうございます。
よかったらログインしてコメントも書きませんか?閉じる

このネタへのコメント6

コメントを投稿するにはログインが必要です。

ログインしてコメントを書く

カテゴリ別アクセスランキング

トップ