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【パンドラ映画館39】伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』

2009/11/4 11:50
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 11月6日は松田優作の命日だ。ハリウッド進出作『ブラック・レイン』(89)が10月に日本で公開された直後の1989年11月6日午後6時45分に亡くなり、今年は20回忌となる。身内の冠婚葬祭のことはうっかり忘れても、松田優作の命日と聞くと身を正して、自然と背筋が伸びる。多分、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)のジーパン刑事なり、『探偵物語』(日本テレビ系)の工藤ちゃんなり、彼の出演作に一度でも触れた人間なら共通することだろう。「2009年は、優作の20回忌なのよね」という松田美由紀夫人の言葉に端を発し、松田優作の姿を映像に収めたフィルムメーカーたち、その存在に多大な影響を直接的、間接的に受けた俳優たちが呼応して、不世出の俳優・松田優作の最初で最後となる公式ドキュメンタリー『SOUL RED 松田優作』が完成した。

『SOUL RED』の冒頭を飾るのは、『ブラック・レイン』のオーディション用ビデオ素材。最終候補に残った松田優作が、ビデオカメラに向かって演技をする。オーディション段階から、すでにヒットマン・佐藤が内包する狂気が垣間見える。そして『ブラック・レイン』本編へ。公衆の面前で佐藤が殺戮ショーを繰り広げるシーン。オーディションでチラ見させていた狂気が、フィルムを回すカメラに向かって全開する。フィルムの中の松田優作は水を得た魚だ。重力から解き放たれた魂のように、緩急自在なアクションと細やかな表情を見せつける。まるで、フィルムのひとコマひとコマに、己の魂の刻印を押しているかのようだ。そして畳み掛けるように、『蘇る金狼』(79)、『野獣死すべし』(80)、『ヨコハマBJブルース』(81)と名シーンの数々が続く。合間を繋ぐように、脚本家の丸山昇一氏、カメラマンの仙元誠三氏ら"優作伝説"の共犯者たちが証言する。一連のハードボイルド系代表作はスクリーンや深夜テレビ、ビデオで何度も観ているはずなのに、「やっぱり松田優作はすごい!」と田舎の中学生に戻ったかのように呟く自分がいる。

 亡くなって20年が経つが、当然ながらフィルムの中の松田優作は年をとらない。常に狂気という名のダイナマイトを抱え、観る者が火傷をしそうなほどの熱エネルギーを全身から放出し続ける。カメラマンの仙元氏は「ボクが現場であくびをしただけで、その日の撮影を中止させられた」とインタビューに答えているが、観客ですらスクリーンの前で眠くなることを松田優作は許さない。一瞬でもこちらが気を緩めたら、スクリーンから飛び出してきて、グーパンチで殴られてしまいそうなほどだ。でも、どうせなら『リング』の貞子みたいに、松田優作がスクリーンから飛び出してきたら......などと夢想してしまう。

『SOUL RED』は松田美由紀出演作『世界はときどき美しい』(07)でデビューした御法川修監督の手によるもの。御法川監督は松田優作の唯一の監督作となった『ア・ホーマンス』(86)に衝撃を受けたという37歳。『ア・ホーマンス』は松田優作が超人的な能力を発揮する不死身の男"風"を演じた、今見直すと感慨深いストーリーだ。予定していた監督が撮影直前で降板するという不測の事態の中で、主演を務める松田優作が急遽、監督も兼任することでお蔵入りを免れた作品でもある。松田美智子著『越境者 松田優作』(新潮社)によると、すでにこの頃の優作は血尿で苦しんでいたそうだ。それでもかつて文学座に籍を置き、舞台への出演や演出も手掛けていた彼にとって、「ショー・マスト・ゴー・オン(幕を降ろすな)」は役者としての金科玉条だった。そして、その鉄則を『ブラック・レイン』の際も守ってしまった。

 10月23日、東京国際映画祭「映画人の視点」の中で松田優作特集上映が組まれ、トークゲストとして"優作の一番弟子"を自認する松田美由紀夫人が登壇した。「優作の話をするときは、今でもニヤニヤできない」とのことだが、作家の林真理子の書いた映画評に「お前に映画の何がわかる」と怒って電話を掛けたこと、優作が亡くなった後、知り合いから「今、優作さんが夢で逢いに来てくれました」といった電話が深夜によく掛かってきたことなど、伝説の男との尽きることのない思い出を語った。家庭でも基本的に、映画やTVドラマで観る松田優作のまんまだったらしい。オールナイトイベントながら、TOHOシネマズ六本木ヒルズで最大キャパを誇るスクリーン7の客席は満席に近い入り。松田優作が肉体を失ってから20年が経つが、人気は衰えてないことを実証していた。

 遺作となった『ブラック・レイン』以降、ハリウッドではキャストのメディカルチェックが義務づけられるようになった。治療よりも撮影を優先した松田優作の選択は今の時代讃えられるものではないが、また誰もが真似できるものでもない。松田優作は現世で生きることよりもフィルムの中で生きることを望み、そしてそれを実行した。『ネバーエンディング・ストーリー』(85)の絵本の世界に魅了された主人公のように、スクリーンの向こう側へと行ってしまった。とても陳腐な言い回しとなってしまうが、松田優作はフィルムの中で今も生き続けているのだ。そして彼は上映される度にスクリーン上で甦り、スクリーンの向こう側から客席を凝視し続ける。松田優作に睨まれ、自分はただもう「一体、オレは何をやっているんだ」と自問自答するだけだ。今年もまた襟を正す日が近づいてきた。
(文=長野辰次)

●『SOUL RED 松田優作』
エグゼクティブ・プロデューサー/松田美由紀、河井真也 監督/御法川修 出演/浅野忠信、香川照之、宮藤官九郎、仲村トオル、アンディ・ガルシア、黒澤満、丸山昇一、筒井ともみ、仙元誠三、今村力、関根忠郎、森田芳光 配給/ファントム・フィルム 11月6日(金)より新宿ピカデリー、11月7日(土)より丸の内ピカデリーほか全国公開
http://www.yusaku-movie.com
(C)2009 SOUL RED Film Partners

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