お笑いコラム【この芸人を見よ!52】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」
2009/10/26 19:59
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“メンフィス”西森(左)と“メンフェンティス”大林(右)。
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ここでメインになっているのは、どぶろっくとモンスターエンジン西森の自作ソング。どぶろっくは、身近な女性に対する欲望むき出しの恋心をさわやかに歌い上げる。一方、モンスターエンジン西森は、実家の鉄工所で見られる哀愁漂う情景をヒップホップ調で聴かせる「鉄工所ラップ」を披露している。このCD発売によって、コミックソングの新境地を切り開く彼らへの注目度もますます高まりそうだ。
モンスターエンジンの2人は、ここ1、2年の間に着実に力を付けてきている。昨年末の「M-1グランプリ2008」と今年9月の「キングオブコント2009」でも見事に決勝進出を果たした。いずれも優勝こそ逃しているものの、ひと癖ある彼らの芸風は業界内でも評価が高い。
彼らのネタでは、一風変わった設定や突拍子もないキャラクターが登場することが多い。だが、彼らは決して見る人を置き去りにしない。絶妙のネタ運びによって、そのような独創的で奇抜な設定をあっという間に受け手に理解させてしまうのである。
「暇を持て余した神々」のネタでは、突如現れた神に戸惑う人間が、自分も神であることを明らかにして、「まただまされたな」と得意げにつぶやく。「競馬」のネタでは、競馬の実況の仕事をクビになった爺さんが、杖に仕込んだしびれ薬で若いアナウンサーの動きを止めて、マイクを奪い取り勝手に実況を始めてしまう。
どちらのネタでも、初めて見る人は訳の分からない設定とキャラクターに戸惑うが、ほんの一瞬のうちに彼らの世界に引きずり込まれる。ネタが細部までしっかり作り込まれているからこそ、見る側も安心して身をゆだねることができるのだ。
お笑いネタを作る上で最も難しいのは、奇抜な発想とわかりやすさのバランスをどのように調整するか、ということだ。基本的には、発想の飛ばし具合とわかりやすさはトレードオフの関係にある。発想がぶっとんでいればいるほど、その分だけわかりづらいものになってしまう可能性も上がるのだ。だから、普通の芸人は、そこそこ斬新でそこそこわかりやすいような、程よく釣り合いがとれているところを探そうとする。
だが、モンスターエンジンのネタの作り方はそれとは異なる。彼らは、あくまでも自分たちのオリジナリティーにこだわり、発想を限界まで飛ばして独自の世界を表現しようとする。ただ、その一方で、それをわかりやすく見せるための工夫にも努力を惜しまない。
例えば、西森洋一の「鉄工所ラップ」は、歌詞も曲調も韻の踏み方もほぼ完璧で、コミックソングとしてのクオリティーは抜群に高い。だが、彼はその楽曲をネタとして披露するときには、いきなり歌い出したりはしない。音楽が流れてきて「いや、こんなリズム流されても鉄工所のラップなんてできませんよ」としらじらしく振っておいてから、おもむろに歌い始めるのだ。ここまで丁寧にしなくても、というくらいの過剰な丁寧さでネタを作り込み、一流の発想を超一流のネタに仕上げているのである。
「鉄工所ラップ」の歌詞の中では、「1000分の1ミリの鉄の段差を手に触れるだけで分かる男」など、鉄工所に長年勤める職人たちの人間離れした技術力の一端が紹介されている。お笑いネタを作るということにかけては、モンスターエンジンの2人ほど職人的なこだわりを発揮している若手芸人はなかなかいない。
彼らは、怪物並みの内燃機関を駆使して、「オリジナリティーがあってわかりやすい笑い」という、芸人なら誰もが憧れる理想へと一心不乱に突き進んでいる。これからもお笑い界を縦横無尽に暴走し続けるだろう。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる"お笑い愛"で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は11月予定。ご期待ください。
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