「ドSの宇宙」に「マウンティング」「膵臓を食べたい」etc. あなたの知らない「珍名本」の世界

2017/3/8 19:01 ネタりかコンテンツ部

本の「タイトル」は、人間にとって“顔”のようなもの。

しかし書店を覗くと、「変なタイトルだな」「売る気があるのかな」と思わされるような、珍しくて風変わりな本のタイトルを目にすることがよくあります。

 

今回はそんなタイトルを持つ本を「珍名本」と命名し、それらを実際に制作した経験を持つ5名の編集者に、その制作経緯について伺ってみました。

 

1冊目 『夫のちんぽが入らない』/編集:扶桑社 高石氏

chinpo

 

ーーなぜこのようなタイトルとしたのですか?

 

高石:『夫のちんぽが入らない』は、もともと著者のこだまさんが同人誌として発表したエッセイのタイトルで、本書はそれを加筆修正したものでした。

だから『夫のちんぽが入らない』というタイトル自体が、どうしてもこの作品とは切り離せないキーワードであったため、それを尊重しそのままとしたんです。

 

ーーいくら重要なキーワードとはいえ、周囲から反対はされませんでしたか?

 

高石:社内からは「読者が手に取りづらい」「客層を狭めてしまう」などの意見があがりました。売れなくなる可能性のあるタイトルをつけてしまうのは、良くないんじゃないかと。

でも、『夫のちんぽが入らない』は“普通に生きることができない”ことに悩むこだまさんが、「普通じゃなくてもいいんだ」という考え方を受け入れていく過程を描いた作品です。

全力で人生をさらけ出してくれた彼女に「もっと普通のタイトルにしましょう」なんて言いたくなかった。タイトルだって“普通”である必要なんてないはずです。

だから本作は、“普通”や“常識”という価値観に苦しんだり、違和感を覚えたことがある人にぜひ読んでほしい。それで読後にちょっとでも心が軽くなったとしたら、嬉しいです。

 

『夫のちんぽが入らない』 http://www.fusosha.co.jp/special/kodama/

 

2冊目 『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』/編集:コアマガジン 坂本氏

mounting

 

ーーなぜこのタイトルに?

 

坂本:著者のロマン優光は、前作で『日本人の99.9%はバカ』というタイトルをつけたように、「他人を不愉快な気持ちにすることで喜びを得るドS」な性格です。

本作は“サブカル”をテーマとしていたので、その界隈でちょっと炎上するような挑発的なタイトルをつけることにしました。

実は最初のタイトル案では、『クズどもに』ではなく『クソどもに』となっていたんですが、それはさすがに上司から止められてしまいました(苦笑)。

 

ーー実際に炎上も起こりましたよね。

 

坂本:タイトル発表後、映画評論家の町山智浩さんや水道橋博士、吉田豪さんなどサブカル界隈の方たちが話題にしてくれました。

一方で、本を読まずに批判してくる人も多かった。たしかにタイトルだけを見れば誤読しがちですが、中身はちゃんとしているので、サブカルに興味がある人は楽しく読めると思いますよ。

 

『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』 http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_021.html

 

3冊目 『ブスの本懐』/編集:太田出版 林氏

busu

 

ーーweb上での連載時は『ブス図鑑』というタイトルだった本作。なぜ本のタイトルは『ブスの本懐』へと変更されたんですか?

 

林:会社からNGが出たからです。「こんな(攻撃的な)タイトルはまずいだろ」と。でも「ブス」をテーマにしたエッセイだったので、必ず「ブス」という単語は使いたかったんですね。

実は当初『つまらない美人より、おもしろいブスの方がいい』という自己啓発狙いのタイトルを考えていました。周囲へのアピールのため、そのタイトルを自分のデスクに貼ったりしていましたね。でも、今度は営業担当者に猛反対されてしまって……。

だから次のタイトル案を考えるため、「ベストセラー大喜利」をやってみました。古今東西のベストセラーのタイトルの一部を「ブス」に変えるというものです。

たとえば、『ブスはどこへ消えた?』『ブスは見た目が10割』『世界がもし100人のブスだったら』『世界の中心でブスが叫ぶ』『ブスに届け』など。

そうやっていろいろ考えていた時期に、ちょうど小池百合子さんが東京都知事に当選されて。それにあわせて、かつて出版された『女子の本懐』という本が話題になり、現在の『ブスの本懐』へと結びついたわけです。だから、元ネタは東京都知事ということになりますね(笑)。

 

『ブスの本懐』http://www.ohtabooks.com/publish/2016/11/16155001.html

 

4冊目 『借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ』/編集:サンマーク出版 橋口氏

2000

 

ーーなぜこのタイトルに?

 

橋口:著者の小池浩さんとの打ち合わせ中に浮かんだんです。

「口ぐせって、その人の“生きてる上での前提”があらわれたもの。宇宙とは、その前提をかなえてしまう存在。“こんなこと、本人が思ってるわけないよね”という解釈も、“さすがにこれかなえちゃかわいそうでしょ”という情状酌量もしてくれない」

そう小池さんが言われたんです。

以前小池さんは2,000万円の借金を背負っていたのですが、それはすべて当時の彼氏のネガティブな口癖が原因だったと聞いたとき、私はふと「願望よりも口ぐせを実現してしまう宇宙って、ドSですね~」と笑ったんです。

そこから、「ドSの宇宙さん」という言葉が生まれました。“これは著者が経験した実話であり、「宇宙のしくみ」とやらを、自分自身が「実験してみた」結果の本なんだ”という「やってみた感」を出そうとした結果、今のタイトルに仕上がったんです。

 

%e7%94%bb%e5%83%8fno6%e3%80%8c%e5%ae%87%e5%ae%99%e3%81%95%e3%82%93%e4%ba%ba%e5%bd%a2%e3%80%8d%e3%81%ae%e5%86%99%e7%9c%9f

 

※本に登場する「ドSの宇宙さん」の人形。

 

ーーまわりの反響はいかがでしたか?

 

橋口:「ドSの宇宙さん」とは、いってみれば自分の中の“直感”なのですが、キャラクター化し、イラストに起こすことで、その“教え”がすんなり入ってきたという声が多かったです。

ハガキにイラストを描いて送ってくださる読者の方もいました。みなさん想像以上に「ドSの宇宙さん」というキャラクターに愛着を持ってくださっていて、感激しました。

 

『借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ』 https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=3582-7

 

5冊目 『君の膵臓をたべたい』/編集:双葉社 荒田氏 

suizou

 

ーーなぜこのタイトルに?

 

荒田:この作品は、もともと著者の住野よるさんがwebサイト「小説家になろう」に投稿したもの。投稿時のタイトルは『君の膵臓を食べたい』で、本編と不可分なものでした。だから、本にする時もそれを残したいと思って。

ただ、グロテスク感を少し削ぐため、「“食べる”をひらがなにしたい」と住野さんにお願いし、現在のタイトルとなりました。

 

ーー発売後はどんな反響がありましたか?

 

荒田:「タイトルを見て、ギョッとした」とか「最初はホラー小説だと思った」というような意見が寄せられました。青春小説をイメージした表紙のデザインに、インパクトの強いタイトル。そこが気になって買われた方も多かったみたいですね。

また、ありがたいことにインターネット検索サイトのYahoo! JAPANさんからは、「検索大賞2016」の小説部門 大賞を頂戴しました。どうやら昨年“日本で1番検索数が急上昇した小説”だったみたいです。

他の部門で受賞されたのが映画『君の名は。』やアプリ『ポケモンGO』だったので、大変驚きました。改めて、住野さんのすごさを実感しましたね。

『君の膵臓をたべたい』http://www.futabasha.co.jp/introduction/2015/kimisui/

 

「珍名本」作家にも話を聞いてみた

編集者が「珍名本」を制作するのは、“本のテーマ”や“インパクト”そして“売るために”などの理由があげられます。

では一方で、自分の作品に「珍名」をつけられる著者は何を思うのでしょうか?

『夢、死ね!』や『ネットのバカ』などの著作を持つネットニュース編集者の中川淳一郎氏に話を聞いてみました。

 

nakagawa

 

ーー「珍名本」を出すことは、著者にとってどんなメリットやデメリットがありますか?

 

中川:私は過去に『ウェブはバカと暇人のもの』『バカざんまい』など、「バカ」という単語を使った著作を3冊出版していますが、どれも重版がかかるほど売れました。

そのせいで、会ったことのない人からは「怖い人」「口が悪い人」と認識されてしまうところは、たしかにデメリットですね。

でも、これはメリットとも考えられます。だって実際に会ってみると、「思った以上にまともだった」とか「優しかった」とか思われることが多い。最初のイメージが悪い分、直接会ったときに好印象を与えやすいわけです。

 

ーー中川さんの著書や今回の記事で紹介してきた「珍名本」は、どれもヒット作として売れています。これはやはり、珍名に負けない「中身」が伴っているからこそでしょうか?

 

中川:うーん、どうでしょう。たとえば「日本タイトルだけ大賞」という“内容はまったく評価の対象とせず、タイトルが面白い本”を選ぶアワードがあります。

こちらのサイトを見ると、タイトルはすごくユニークでも、ぜんぜん売れていないという本もあります。タイトルだけで判断してしまうと、つまらないハズレ本を引いてしまう可能性もあると思い、買わないんでしょうね。

でも本なんてそんな高いわけじゃないから、いっぱい読めばいい。読んでいくうちにハズレか当たりかを見極めるセンスも磨かれていきますから。

 

 

取材・文 紐野義貴/編集 プレスラボ

このネタ読んでどう思う?

投稿ありがとうございます。
よかったらログインしてコメントも書きませんか?閉じる

このネタへのコメント6

コメントを投稿するにはログインが必要です。

ログインしてコメントを書く

カテゴリ別アクセスランキング

トップ