人はなぜ「退職エントリ」を書くのか?実際に書いた人に聞いてみる

2016/8/5 19:01 ネタりかコンテンツ部

「株式会社◯◯を退職しました」

Facebookには、今日もそんなタイトルの記事が更新される。

 

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ネタりかをご覧のみなさん、こんにちは。ライターのサカイエヒタです。

さて、みなさんは「退職エントリ」というものをご存知だろうか。この「退職エントリ」とは、会社を退職した人がブログなどの場で、退職した旨を読者に報告するエントリ(記事)である。

その内容は、退職に至る経緯や理由、在籍していた会社の仕事内容、良い点悪い点が書かれる。中には企業の内部告発に近いような内容のエントリも。もちろん「退職」というものはネガティブなイベントではないため、前向きな内容や、在籍していた会社への感謝の言葉が並ぶエントリもある。

さて、なぜこのように一部の人は「退職エントリ」を書くのだろうか。私自身はこの「退職エントリ」を書いた経験がないため、もし書くとなればちょっと心配な点も多い。以前の会社の人が読んだらどう思うだろう。これまでの顧客はどう思うだろう。なにより炎上したりしないのか。(こわい)

そこで今回は、実際にこの「退職エントリ」を世に公開した3人の男女にインタビューを試みた。果たして「退職エントリ」は彼らになにをもたらしたのか。そして、退職者はみな書いた方が良いのか?

 

︎「退職」もネタのひとつ。新卒2年目で会社を辞めたフリーランスの場合

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まず最初にお話を聞くのはブロガーのあんちゃさん。彼女は新卒入社した電子書籍の出版会社を退職し、フリーランスとなった。退職エントリ、「25歳女、新卒で入社した会社を2年で退職しました。」を公開したのは2016年5月。新卒入社から2年後のこと。

 

──退職エントリを拝読しました。比較的ネガティブなことが多く書かれる退職エントリの中で、あんちゃさんのエントリは前向きな内容でしたね。

 

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そうですね。会社への不満はほとんどありませんでした。ほんと、好きな仕事をさせてもらってましたから。でも、いつからかブログのほうに可能性を感じるようになって、会社に行く時間がもったいなくなったんです。まだ新卒2年目でしたが、「死ぬわけじゃないし!」と思い切って会社を辞めることにしたんです。

 

──退職エントリを書いた時はどんな心境だったんでしょうか。

エントリの公開は5月だったんですが、4月くらいから退職の旨はブログで書くつもりでいました。でも何を書くかは具体的に決めていなくて、その時の感情を一気に書きましたね(笑)。特に編集なども入れず、そのまま公開して。

 

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──エントリを公開してみて、反応はどうでしたか?

正直、反応はすごかったですね。特にFacebookでのシェアがすごかった。

知らない人からも連絡が来ました。「励まされた」「もうちょっと詳しく聞きたい」など、私と似たような悩みを抱えた人からたくさんメッセージが届いたんです。「一緒に仕事できないでしょうか」といったポジティブな内容の反応が多かったのが嬉しかったですね。

公開する前から、ある程度反応は来るだろうな〜と思ってはいたんですけど、まさかここまでとは思わなかったです。

 

──でも、「もっと長く働くべきだ」など、中には批判的な意見もくるのでは……?

それはやはりありました。有名なブロガーさんが私の記事を題材にブログを書いてくれたりしたので、それをきっかけにさまざまな意見をもらいましたね。「こいつの人生詰んだ」みたいに言われたり。まあ、変に消耗しちゃうから、そういった批判的な意見はあんま見ないですけど(笑)。

 

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──退職前ではなく退職後に公開したのにはなにか理由があるんですか?

やはりある程度の批判的な意見も来るかと思っていたので。辞める前に公開して、そういった意見を見てしまったら心折れてしまうかもしれないと思ったんです。自分の決心が揺らがないように、辞めた後に公開しました。いろいろ言われたところで、もうすでに会社は辞めちゃってるし、しょうがないやと(笑)。

 

──ある程度予想はしていたものの、意外な反応などはありましたか?

記事が検索でも上位に表示されるようになり、「新卒 退職」「新卒2年目 退職」といったワード検索で来た人からも「記事を読んで辞める決心がつきました」などメッセージをもらえたのは予想外で嬉しかったですね。私の場合、辞めるかどうか悩んでいる人の参考になればいいな〜と思って書きましたから。こうして見切り発車で辞めちゃった女もいるんだよ!って(笑)。

 

──退職エントリは、どんな人が書くべきですかね。

自分の決心を固めたいひとは書くべきじゃないですかね。こうして公にしちゃえば、もう後戻りはできなくなりますし。あとは、ライターやブロガーなど、web上での執筆を生業にしようと考えている人も書くべきじゃないでしょうか。

 

──執筆を生業にしようとしている人? なぜですか?

退職って、今後の人生を変化させる、人生における大きなイベントですよね。その時の感情を鮮明に書ける人は、結果として人の心を動かせる文章が書けるんじゃないかと思うんです。こうしたイベントも、日々更新していくネタの中のひとつですからね。

 

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最後にはなんともブロガーらしい意見で締めていただいた。たしかに文章で生きていくなら、自身が体験した「退職」というイベントすらネタにしてしまうくらいの貪欲さは必要かもしれない……。しかし、ずっと笑顔だなこの人。

 

会社を辞め、高知県に移住し「退職エントリ」を書いたブロガーの場合

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続いてお話を聞くのは、7年働いた東京にある介護系の会社を辞め、高知県に移住したコーヘイさん。彼は、ブログの収益で生活するプロブロガー「イケダハヤト氏」の「書生(弟子)」として高知県で活動しているブロガー。彼もまた、自身のブログにて退職エントリ「7年間勤めた会社を退職しました!」を公開した。

 

──コーヘイさんの退職エントリは非常に淡々、と言いますか、さらりと退職について書かれていますね。

 

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僕の場合、時間が経った後にログとして自分が見返せればいいなと思って書きました。その時のリアルな気持ちを残しておきたいなって。世の中にはいろんなタイプの退職エントリがあると思うんですが、僕はマイルドに、これまで関わってくださった方々への感謝の気持ちをちゃんと書きたかったんです。前職への愚痴や、悪口は書きたくなかった。

 

──これまで7年間、介護のお仕事をされていて、いきなり高知県へ移住されたんですよね。当時はどういった心境だったんでしょう。

正直、介護の仕事が自分にとって納得できる仕事なのか常に自問自答していました。この道で良かったのか、という迷いがあったんです。もちろん仕事にやりがいはありましたし、責任もありました。でも、もやもやはずっと感じていたんです。で、そんな時にブログを始めたんですね。最初は趣味として、言うなれば日記の延長として書いていたんですが、イケハヤさんの存在を知り、プロブロガーという働き方に衝撃を受けました。人の役に立ち、自分自身も満たせて、しかもお金も稼げるなんて(笑)。どういうことだと。

 

──たしかに、これまでのコーヘイさんの働き方とはまったく違いますね(笑)

そうなんです。そこで、早速東京から高知にいるイケハヤさんに「ブログ書生ってどうですかね」って話をしてみたんですよ。要は、彼のお手伝いさんみたいな存在ですね。するとあれよあれよという間に話が進んで。「いつ来れます?」って(笑)。じゃあもう行っちゃうかと。

 

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──7年働いた会社を辞めて、高知県でブロガーになる。それって私からするとかなりリスキーだと思うのですが……(笑)。何がそうさせたんでしょうか。

僕はこれまでの人生、親に対しても反抗心がなかったし、いわゆる「良い子」で育ってきたんです。そんな境遇もまた助長したのかなと。社会人になっても、ずっと実家暮らしだったんですね。でも30歳を目前に、本当にこのままでいいのかなって思ったんです。

 

──よくご家族は納得されましたね。

実は、この歳になってひとつひとつを親に相談するのもどうだろうと思い、家族に伝えたのは高知県に移住してからの事後報告でした。それを聞いた途端、家族はみんな体調崩して(笑)気でも狂ったか! と言われましたね(笑)

 

──そりゃそうですよ……あまりにも極端ですよ……(笑)

たしかに極端かもしれませんが、そうでもしないと、自分はずっとこのまま実家にいるんだろうなと思ったんです。これまでの僕の人生の中で、一番の決心だったわけです。ずっと、世界中を旅したりいろんな仕事を経験したり、そんな風に行動に移せる人たちがうらやましかった。だからこそあのエントリには、過去の自分と同じような人に、とりあえず行動に移してみようよ、というメッセージが含まれています。

 

──エントリ公開後、実際の反応はどうでしたか?

そこは「イケハヤ書生」ということで、いろんな方に読んでいただいたと思います。やはり、あの人の影響力は半端ないですね……(笑)。まあ、そこだけに頼ってはいけないんですがしみじみ感じています。知り合いから「記事読んだよ」といった反応はありましたが、淡々と書いた内容ということもあってか、そこまで大きな反響はありませんでした。

 

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──退職を考えているとか、環境を変えたいと思っている人は、退職エントリを書いたほうが良いのでしょうか?

書いたほうがいいんじゃないでしょうか。その時の旬な気持ちを、自分のためにも他者のためにも残しておいたほうが良いと自分は思いますね。

 

──ちょっと意地悪な質問をしますね。今後東京に戻ったり、介護の仕事に戻るとしてもこのエントリは残しておきますか?

そうですね……まあ、「ごめんなさい、やっぱり東京に戻ってきちゃいました」っていつか記事を書く際に使えるかもしれません(笑)。これは自分の歩んだ道でもあるので、そのまま残しておきますよ。

 

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なんとも大胆な行動をしたにも関わらず、とても冷静に自分を見ている人なのだと話を聞いていて感じた。過去のコーヘイ氏と、現在のコーヘイ氏の境界にあのエントリはあるんだろうな、と勝手に思う。しかし高知は海が青いな。

 

「退職エントリ」もツールのひとつ。サイバーエージェントを退職したエンジニアの場合

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最後はこれまで取材したような会社勤めからフリーになった人ではなく、いわゆる「転職」をした方と会った。エンジニアである並河氏が退職エントリ「サイバーエージェントを退職します」を公開したのは2015年9月。退職エントリを書いた理由と、その後について話を聞いた。

 

──退職エントリ拝読しました。円満な退職だったと見受けられましたが、実際はどうだったんでしょうか。

 

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それはブログの通りですよ。私にとってサイバーエージェント(以下CA)は、とても良い会社でした。社長は若くて柔軟だし、良くも悪くも話題になる会社。働いている人みんなの熱量が高いのが刺激的でした。いわゆる体育会系な営業職じゃなくても、チーム全員が目標に向かって一所懸命やってる感じなんです。何より、事業が右肩上がりだったのはとても良かったですね。やったことが目に見える形で伸びていくのは楽しかったし、やりがいにもなります。

 

──それだけ聞いていると、転職する理由がわからないのですが……。

そうですよね(笑)。たしかにそのまま定年までいても良いくらいの環境でした。ただ、私が転職をしたのも、CAの社風が影響しているんです。と言うのも、あの会社はセカンドチャンスを大切にしてくれる会社なんですよね。

 

──セカンドチャンスとは?

詳しくはブログの方でも書かせてもらったんですが、30歳も半ばになり、将来を見据えた時まだこの歳なら、違う道にチャレンジしてもいいかなって思ったんです。最悪そこで失敗したとしても、土下座すればCAに戻れるかなという気もあったし。もちろん冗談ですけど(笑)。でも、50代になったら果たしてそれはできるのかなって。私はエンジニアとして生きてきましたが、もっともっといろんな視点で世の中を見たいなと思いました。退職時には会社に対してかなりわがままを言いましたね。

 

──重要な仕事に携わっていたりチームを動かしていたり……会社にとっても並河さんは手放したくない人物だと思うのですが。

退職の際にはそこは気を使いました。実際当時の仲間たちがどう感じていたかはわかりませんが、伝達の順番などは難しかったですね。円満であるよう努めましたし、辞めるにあたって特に嫌な思いはしなかったです。ただ、私は会社の看板を背負い外に向けて技術的な情報発信することも続けていたので、あの退職エントリはそういった意味でも必要だったんですよ。

 

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──「CAの並河氏」としてもきちんと報告しなければ、という思いですね。

CAに入社した際、当時の上司に「どんどん情報を発信して欲しい」と言われたんですね。会社の名前と私の名前をセットで活動していたので、CAを辞めるのであればやはりなんらかの形で報告しなければならないと思って。必然的にあの様なエントリを書いたということです。もちろん、社外だけでなく社内の人に対してもですね。CAは社員数も多いですし、どうしても社内で挨拶しきれない人もいたので、なぜ私がこのような決断をしたのかは伝えたいと思いました。

 

──世にある退職エントリは、「退職を悩んでいる知らない誰かに向けて」という意味合いもあると思うのですが、そういった意図はなかった?

正直「誰かのために」という意識はしていないですね。私は普段からそうかもしれません。「誰かがこれを読んで得になれば」という目的で発信することはあまりないです。結果として誰かが得をするならそれはそれで良いかな、とは思いますけど。

 

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──実際に退職エントリを公開してみて、どんな反応がありましたか?

たくさんメッセージをもらいました。ありがたいことに「もう次決まってるの?」「うちの会社どう?」なんてお話も。すでに次の転職先は決まっていたのでそこはきちんとご説明しましたが、狭い業界内でそう言ってくださる繋がりってとても大事なので、情報交換がてら飲みに行ってました。そのせいか、退職後は毎日のように飲みに行きましたね(笑)。

 

──反応の中にネガティブな意見はなかった?

ネット上ではPVがある一定を越えると多少はいろんな意見をもらいますが……

私の場合これといったネガティブなものはなかったですね。

 

──退職ブログはみんな書いたほうがいいのか? という点ですが、どう思いますか。ちなみに、実名で書く場合です。

みんながみんな書く必要はないと思いますが……私はコネクションを保つ、もしくは輪を広げるという意味では書いて良かったなと。自分でメリットを感じる部分を明確に持てているのであれば書いてもいいんじゃないでしょうかね。ただこれはあくまで自分の意見ですが、文章には人柄がけっこう出るので書くにあたっては気をつけるべきところはあると思います。

 

──どんな点に注意すべきでしょう?

たとえば、前の会社の人事の人がそれを読んでもし不快な気持ちになったとしたら、それは次の会社の人事の人にもあまり良い印象ではないかな、と。退職エントリで前の会社の人を不快にさせる文章を書いてしまう人物を採用したいかといえば、なかなかしたくないと思うんです。その点については損をするんじゃないかなと思うんですね。すべてを否定するつもりはないですが、そこはマナーと言いますか、今までお世話になったところに不利益になるような内容は社会人としてもあまり良くないんじゃないかなって思いますよ。

悪いことを書いても誰も良い気持ちはしないですからね。

 

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並河氏には「THE・オトナ」な意見をたっぷりもらった。ブログが持つ「セルフブランディング力」を冷静に捉えながら、誰よりもその力を最大限に使っている印象を持った。ちなみに並河氏とロケ地の浅草はなんの関係もない。

 

退職エントリを書くのか、書かないのか

「人はなぜ退職エントリは書くのか」そんな疑問からはじまった今回の取材。三者三様の理由と、その後のストーリーを聞けた。ただ単に「辞めてやったぜ! ざまあみろ!」的な退職エントリも見受けられるが、中には退職エントリを書くことで、新しい出会いを得られたり、強く生きることができたり、前を向くことができるということを私は知った。

そして何よりみなさんに伝えたいのは、実は筆者も今の会社を間も無く退職するということ。さて、私は退職エントリを書くのか……? どうしようかね。

 

ライター:サカイエヒタ(Concent編集部)

カメラ:瑠奈、本藤太郎

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