夫婦愛の感動を超えた、老いた男の子の成長物語「カールじいさんの空飛ぶ家」
2009/11/26 12:05
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夫婦愛の感動を超えた、老いた男の子の成長物語「カールじいさんの空飛ぶ家」
【バックナンバー】
・ タランティーノの映画オタク魂爆発! 元ネタだらけの「イングロリアス・バスターズ」
・ 超A級のB級精神! ヒットメーカーが変態だったと驚愕する傑作ホラー「スペル」
・ 年の差カップルでラブコメの限界に挑む!? 「あなたは私の婿になる」
ゼロ年代(2000年〜2009年)もそろそろ終わりだが、この10年の映画界で最強と言える仕事を残したのは、ずばりピクサーではなかろうか。
「モンスターズ・インク」から「ウォーリー」まで、ゼロ年代にこのアニメーション・スタジオが発表した作品群は、それ以前の「トイ・ストーリー」シリーズの成果を踏まえた、いずれも世界映画の最先端かつ王道を行く傑作ばかりだ。今年の夏に日本公開されたディズニーのアニメ「ボルト」も、ピクサーの血と方法論を全面的に取り入れることにより、見事なアップデートを果たしていた。
・「カールじいさんの空飛ぶ家」作品フォトギャラリー
そして新作「カールじいさんの空飛ぶ家」は、まさに現在のピクサーの絶頂ぶりを100%体現する名作である。パッとワンカットが映っただけで、“格が違う”とはこういうことか、と観客を圧倒させるオーラをびんびんに放っている。
とにかく映像が素晴らしい! たくさんのカラフルな風船を気球のようにつないだ家が空を旅する本作のメイン・イメージは、1950〜60年代に活躍したフランスの映画作家、アルベール・ラモリスの「赤い風船」や「素晴らしい風船旅行」あたりをうまく応用した感じ。一部劇場で3D版も同時公開されるようだが、メガネ野郎の筆者は立体メガネを上に掛ける“メガネ・オン・メガネ”スタイルでの鑑賞が正直つらいので、そちらの成果は各自でお確かめ願いたい。
さて内容についてだが、予告編を目にした人は、ほとんどが「めっちゃ泣ける夫婦愛の物語」と認識しているはずだろう。しかし実は、その部分は前フリなのだ(ゆえに“泣き”のハイライトは最初の方でいきなり訪れる)。本題は、最愛の奥さんを亡くして外界に心を閉ざしてしまったカールじいさんが、ちゃんと「ヨメばなれ」して自立するまでの物語なのである。
幼い頃から共に連れ添ってきた妻のエリーは、カールじいさんにとっての保護者みたいな存在だった。彼はエリーとふたりっきりで居られれば、それで幸福だったのだ。しかし彼女を失って、深い孤独に陥った「老いた男の子」は、いよいよひとりで冒険する必要に迫られる。やがて8歳の少年ラッセルとの出会いがあり、自分自身に保護者の感覚が芽生えたカールじいさんは、人生の晩年になってようやく「成長」を果たすわけである。
本作は、頑固じいさんが少年との交流により柔らかく変容を遂げる、という点で、共通の展開を持つクリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」とやたら比較されている。だがそれは、あくまで表面的な類似に過ぎない。「グラン・トリノ」のコワルスキーはアメリカの保守の歴史が刻まれた一種の政治的存在だが、カールじいさんの核にあるのは無垢な少年性である。そしてまさに少年性こそが、ピクサー作品のメンタリティを解く最大のカギだと言えよう。
筆者がカールじいさんの姿を見ながらずっと思い出していたのは、イーストウッドではなく、ジョン・レノンが晩年に歌った名曲「スターティング・オーヴァー」だ。彼がヨーコ・オノに語りかけた以下のような心情に、本作の物語は近いと思うのだが、どうだろう?
「共に分けあう二人の人生はとても尊い/僕たちは共に成長した/二人の愛は今でも特別なものだけど/あえて冒険してみないか/それぞれ新たな空へ飛び立つんだ」(対訳:山本安見)
(文・森直人)
(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS.ALL RIGHTS RESERVED.
・ハリウッドチャンネル 最新シネマレビュー 一覧
■[ハリウッドレビュー]バックナンバー
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「モンスターズ・インク」から「ウォーリー」まで、ゼロ年代にこのアニメーション・スタジオが発表した作品群は、それ以前の「トイ・ストーリー」シリーズの成果を踏まえた、いずれも世界映画の最先端かつ王道を行く傑作ばかりだ。今年の夏に日本公開されたディズニーのアニメ「ボルト」も、ピクサーの血と方法論を全面的に取り入れることにより、見事なアップデートを果たしていた。
・「カールじいさんの空飛ぶ家」作品フォトギャラリー
そして新作「カールじいさんの空飛ぶ家」は、まさに現在のピクサーの絶頂ぶりを100%体現する名作である。パッとワンカットが映っただけで、“格が違う”とはこういうことか、と観客を圧倒させるオーラをびんびんに放っている。
とにかく映像が素晴らしい! たくさんのカラフルな風船を気球のようにつないだ家が空を旅する本作のメイン・イメージは、1950〜60年代に活躍したフランスの映画作家、アルベール・ラモリスの「赤い風船」や「素晴らしい風船旅行」あたりをうまく応用した感じ。一部劇場で3D版も同時公開されるようだが、メガネ野郎の筆者は立体メガネを上に掛ける“メガネ・オン・メガネ”スタイルでの鑑賞が正直つらいので、そちらの成果は各自でお確かめ願いたい。
さて内容についてだが、予告編を目にした人は、ほとんどが「めっちゃ泣ける夫婦愛の物語」と認識しているはずだろう。しかし実は、その部分は前フリなのだ(ゆえに“泣き”のハイライトは最初の方でいきなり訪れる)。本題は、最愛の奥さんを亡くして外界に心を閉ざしてしまったカールじいさんが、ちゃんと「ヨメばなれ」して自立するまでの物語なのである。
幼い頃から共に連れ添ってきた妻のエリーは、カールじいさんにとっての保護者みたいな存在だった。彼はエリーとふたりっきりで居られれば、それで幸福だったのだ。しかし彼女を失って、深い孤独に陥った「老いた男の子」は、いよいよひとりで冒険する必要に迫られる。やがて8歳の少年ラッセルとの出会いがあり、自分自身に保護者の感覚が芽生えたカールじいさんは、人生の晩年になってようやく「成長」を果たすわけである。
本作は、頑固じいさんが少年との交流により柔らかく変容を遂げる、という点で、共通の展開を持つクリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」とやたら比較されている。だがそれは、あくまで表面的な類似に過ぎない。「グラン・トリノ」のコワルスキーはアメリカの保守の歴史が刻まれた一種の政治的存在だが、カールじいさんの核にあるのは無垢な少年性である。そしてまさに少年性こそが、ピクサー作品のメンタリティを解く最大のカギだと言えよう。
筆者がカールじいさんの姿を見ながらずっと思い出していたのは、イーストウッドではなく、ジョン・レノンが晩年に歌った名曲「スターティング・オーヴァー」だ。彼がヨーコ・オノに語りかけた以下のような心情に、本作の物語は近いと思うのだが、どうだろう?
「共に分けあう二人の人生はとても尊い/僕たちは共に成長した/二人の愛は今でも特別なものだけど/あえて冒険してみないか/それぞれ新たな空へ飛び立つんだ」(対訳:山本安見)
(文・森直人)
(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS.ALL RIGHTS RESERVED.
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・タランティーノの映画オタク魂爆発! 元ネタだらけの「イングロリアス・バスターズ」
・超A級のB級精神! ヒットメーカーが変態だったと驚愕する傑作ホラー「スペル」
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2009/11/26 12:05 更新