【パンドラ映画館41】タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』
2009/11/18 22:19
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でも、そこは"永遠の映画小僧"タラちゃんだけに、万人が泣ける感動作になるはずがない。「映画が好きで好きでたまらないから、映画館ごと宇宙の彼方まで吹き飛ばしてしまえ!」という、タラちゃんならではの歪んだ愛情が炸裂している。『レザボア・ドッグス』(92)ばりの拷問シーンに、『パルプ・フィクション』(94)的な変人たちが続々と登場し、『キル・ビル』(03)のような血まみれの復讐が遂行されるのである。ポイズン度120%。すでに映画が公開された欧米では、タランティーノ映画史上最高のヒットを記録しているが、彼が監督デビューして約18年の間に、それだけ世の中にはおかしな人たちが増えてきたということか。まぁ、ラストシーンで思わず拍手してしまった自分もその1人なわけだが。
タランティーノ監督、主演のブラッド・ピット、映画館の支配人役のフランス人女優メラニー・ロラン、『キル・ビルvol.2』(04)に続いての出演となったジュリー・ドレフュスらが揃った来日会見が、11月4日六本木のザ・リッツ・カールトンで行なわれ、400人の報道陣が集まった会見場の末席に座ることができた。質疑応答での「AERA」(朝日新聞社)の「ナチス・ドイツを取り上げた理由は? 戦後60年の今だからこそ描きたかったことは?」という問いに対して、タランティーノ監督は「戦争映画が好きだから! 戦争映画が作りたかったから!」という身も蓋もない返答。さすが、我が道を行くタラちゃんだ。また、ブラピのアゴ髭は撮影時よりずいぶんと伸びて、ボーボー状態。かなり奇妙なことになっていたが、ハリウッドいちのスター俳優のルックスについてツッコめる記者はいない。ブラピ、自分が二枚目であることにすっかり飽きているんだろうな。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)でもシワシワのおじいちゃんを嬉々として演じていたし。
そんなブラピが、本作で演じているアルド・レイン中尉は、『12モンキーズ』(95)、『ファイト・クラブ』(99)で演じた役柄以上の奇人変人。米軍の特殊部隊イングロリアス・バスターズ(名誉なき野郎ども)を率いて、ナチスを見つけては次々とサディスティックに痛めつけ、そんでもって頭の皮を剥いでポイントカードのように貯め込んでいる。正義のためではなく、それが楽しいから。そんなクレイジーなレイン中尉が牢獄行きにならないのは、ひとえに戦時中ゆえ。ナチスを血祭りにすればするほど、彼は連合軍側の勇敢なヒーローとして称賛を浴びる。すべての歴史は勝者によって書き残されるのだ。
同い歳生まれのタランティーノとブラピは、本作が2度目の顔合わせだ。最初のコラボは、タランティーノが脚本提供したトニー・スコット監督作『トゥルー・ロマンス』(93)。『リバー・ランズ・スルー・イット』(92)で売り出し中だったブラピは、マリフアナ中毒のプー太郎役でカメオ出演(映画にクレジット無しで特別に出演すること)している。このときのキャラ設定は元の脚本にはなく、ブラピ自身が提案したもの。そういえば『トゥルー・ロマンス』も"映画愛"が溢れ出したストーリーだった。コミックショップに勤めるオタク青年がコールガールのヒロインと運命的に出会う場所が、ソニー千葉主演のアクション映画『激突!殺人拳』(74)を上映する場末の映画館(グラインドハウス)だった。映画館を起点に、無鉄砲な男女の甘美な愛の逃避行劇。いつもは冗漫になりがちなタランティーノ作品だが、映像職人トニー・スコット監督のテキパキした仕事ぶりによって、ピチッとした出来映えとなっている。好き嫌いの分かれるタランティーノ作品の中では、幅広く映画ファンに親しまれている作品だろう。
『イングロリアス・バスターズ』に話を戻そう。公開初日の11月20日(金)から11月23日(月)の4日間限定で、"面白さタランかったら、全額返金しバスターズ"キャンペーンを実施することでも話題となっている。上映開始1時間以内に退場すれば、入場料を劇場で返金するというもの。"洋画離れ"が進む日本の配給サイドからの提案に対し、タランティーノいわく「受けてやろうじゃねえの。途中で出れるものなら、出てみやがれ。全然構わないぜ。残ったお客さんたちとオレたちで、大いに盛り上がっちゃうもんね」とのことだ。
本作は5章立てとなっており、映画館の女支配人ショシャナがナチスへの報復を決意する第3章の終わりで、約1時間経過となる。この後の第4章がタランティーノ作品で恒例となっている、酒場での大ヨタ話大会。このシーン、タランティーノ好きなバイリンガルでないと正直言ってダレてしまう。しかし、下らないヨタ話が続けば続くほど、その後にドーンと大きな見せ場が待っているのがタランティーノ作品のセオリー。そして、その期待通り、最終章となる第5章「ジャイアント・フェイスの逆襲」の素晴らしいこと! ヒトラーも来場する戦意高揚映画の上映会場に選ばれたショシャナの映画館が、ナチス撲滅作戦の実行場所となる。新作映画がプレミア上映されるというワクワク感とヒトラー暗殺というハラハラ感が寄り添う、異様な胸騒ぎ。そしてついに、レイン中尉率いるバスターズの面々とナチスへの復讐を誓うショシャナ、ショシャナに恋心抱くドイツ兵、さらにヒトラーにゲッペルス......と有名無名、フィクション上の人物、歴史上、実在する人物たちの運命がグランドクロスのように映画館で重なり合う。その瞬間に、この映画館はかつてない大歓声(悲鳴)が湧き上がる。
劇中に『意志の勝利』(34)、『オリンピア』(38)といった史上最強のプロパガンダ映画を手掛けたドイツ出身の女優&監督レニ・リーフェンシュタール(1902〜2003)の名前も出てくるが、タランティーノは"強い美女が好き"というだけで、「プロパガンダ映画は許すまじ。映画は平和のためにあれ」という主義主張は格別ないと思われる。映画そのものに善悪の区別はなく、つまらない映画こそ糾弾されるべきという考えだろう。だがタランティーノは、やりたい放題の悪趣味な戦争映画を完成させたことで、極めて正しい反戦映画の新しいマスターピースを作ってしまった。ブラピ扮するレイン中尉がナチスの頭の皮を剥ぐシーンは、現実の戦争が行なっている無差別大量殺戮に比べれば、とても慎ましい牧歌的風景にしか映らないではないか。
(文=長野辰次)
●『イングロリアス・バスターズ』
監督・脚本・製作/クエンティン・タランティーノ 出演/ブラッド・ピット、メラニー・ロラン、クリスト・ヴァルツ、イーライ・ロス、ミヒャエル・ファスベンダー、ダイアン・クルーガー、ダニエル・ブリュール、ティル・シュヴァイガー、マイク・マイヤーズ、ジュリー・ドレフィス 配給/東宝東和 11月20日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー R15+
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